日本を訪問する中国人が急増している。2014年の訪日外国人数は前年比29.4%増の1,341万3,600人となり、2年連続で過去最高を更新したが、国・地域別に見ると、台湾が最も多く前年比28.0%増の282万9,800人、2位は韓国で同12.2%増の275万5,300人、3位は中国で伸び率が最も高い同83.3%増の240万9,200人で、中国は初めて200万人を突破した。

また、人数だけでなく、訪日外国人の旅行消費額(2014年 年間値(速報))を国・地域別に見ると、中国が前年比102.4%増の5,583億円で最も多かった。決して良いとは言えない日中関係だが、そうした中でなぜこれほど多くの中国人が日本を観光で訪れ、買物をしているのか? その背景と実態について、観光庁、ドラッグストアなどに聞いた内容を紹介したい。

積極的なプロモーション、円安、輸送量の増加などが要因

観光庁で対応していただいたのは、同庁国際観光課 外客誘致室の関隆宏係長と、同庁観光戦略課 調査室の田嶋ひとみ氏。2014年の訪日中国人がなぜここまで増加したのか、その要因について、関氏は、「高い経済成長による中国の旅行者数が全体として増えていることが背景としてある中で、日本政府観光局(JNTO)の北京、上海、香港の事務所で積極的にプロモーションをした」ことを挙げた。

観光庁 国際観光課 外客誘致室の関隆宏係長(左)と同庁観光戦略課 調査室の田嶋ひとみ氏

プロモーションでは、たとえば旅行博に出展をしたり、商談会をしたり、屋外広告や地下鉄広告を展開したり、現地の旅行会社の販売担当者を日本に呼んで各地の観光地を見てもらったりしている。

また、2013年の9月、10月ぐらいから円が安くなって元高が進み、2014年になってさらに円安元高が顕著になったことや、昨年の10月から消費税免税制度の拡充を行なったことで、「買物好きな中国人が旅行しやすい環境が整った」ことも挙げられるという。

航空路線においても、チャーター便や新規路線の開設があり輸送力が向上したこと、上海や天津からの日本寄港のクルーズが、2013年は年間で14本のみの運航だったのに対し、2014年は116本近く運航され、このことも訪日中国人数が大きく伸びた大きな要因となった。「クルーズの目的地は九州や沖縄が中心だが、チェジュ島を経由して来ることも多い」(関氏)。船は1船当たり2000~3000人ぐらい乗れる大きなもので、価格的にも高級なクルーズではなく、どちらかというとカジュアルクルーズのため安く来日できるほか、買物をするにも飛行機と違って、船に積み込めば重量オーバーとなることもないため人気が高いという。

日本に来る動機はショッピングが圧倒的、買物代が旅行支出全体の半分以上を占める

中国人が日本に観光に来る動機については、ショッピングが最多で、自然景勝地の観光、日本食が続く(観光庁実施「訪日外国人消費動向調査平成26年10-12月期結果より」)。「全体の平均値と比べても、中国人観光客のショッピングへの訪日前期待値は高い」(田嶋氏)。こうした買物好きの中国人にとって、前述の免税制度の拡充も大きな追い風となったが、JNTOでは、免税が開始される前に現地の旅行会社を集める等、免税制度の拡充の告知を事前から長い期間行なっていたという。

現地の旅行会社の人たちも、免税制度が拡充されることを盛り込んだ旅行商品を売り出して周知をしたほか、日本側でも、ウェブや日本政府観光局のアカウントを持っている中国の微博(ウェイボー)、WeChat(ウィーチャット)などを活用し中国語で情報発信を行なった結果、中国人観光客の増加の後押しとなった。

田嶋氏によると、「免税手続きをした人の実績を見てもそれは明らか」。7-9月期の中国人の免税手続きの実施率は38.3%だが、10-12月期の同実施率は53.6%で、半数超の中国人が免税手続きをしたことになる。免税手続きをした購入金額も、7-9月期は7万8000円だったのが、10-12月期は10万2700円と相当な伸び率となっている。

田嶋氏の話で興味深いのは、「買物代が旅行支出全体の5割を超えているのは中国人だけ」という点。免税制度拡充前の7-9月期でも、中国人の買物代は12万1000円だったが、免税制度拡充後の10-12月期は13万8000円となった。

また、日本の情報をどのように得ているかについて聞くと、旅行会社やインターネットはもちろんだが、口コミ効果も大きいという。関氏によると、中国人は、自分の友達、家族に自分の体験を共有する傾向があり、「私は日本でこんな楽しいことをしてきました」というのをみんなに言う、それが一つのステータスになる。それを聞いた人が、日本に行く知人にお土産をたくさん頼んで、それがさらに日本でのショッピングを促すという好循環があるというのだ。

では、中国人観光客は日本に来て何を買っているのか。全体平均と比べて多くの中国人観光客が購入している品目は、昔から言われているような電気製品を4割の人が買っているほか、化粧品・香水も人気で約7割の人が購入。医薬品・健康グッズ・トイレタリーも人気で約6割の人が買っている。

化粧品など女性向け商品が人気、免税対応で銀座では5割強の売り上げ増

化粧品、医薬品などが安く買える商業施設として中国人に人気なのがドラッグストアだ。そこで、大手ドラッグストアのマツモトキヨシホールディングスの高橋伸治広報室長にもお話を伺った。

同社では、昨年の10月21日以降に37の店舗で免税対応を実施。高橋氏によると、免税を始めてある一定期間の対前年との比較をすると、今年は消費税の増税で、既存店の伸張率が厳しい中で、免税対応をした銀座では5割強売り上げが伸びているという。「免税を希望した外国人の方がそれくらいの購買力になっているのではないかと判断している」(高橋氏)。

売上げが伸びているのは、銀座だけではない。同社は、首都圏の繁華街、関西圏の繁華街の一部、特に大阪、京都に免税対応をしている店舗があるが、これらの店のすべてで、伸びが大きいという。

マツモトキヨシ心斎橋店

では、何が売れているのか。同社の場合は化粧品の品揃えが広いため、特に化粧品の売り上げが大きい。カウンセリング化粧品であれば、資生堂、コーセー、マックスファクターなどが売れているほか、一般のメイク商品も売れているという。また、オリジナルの爪切りや目元のパックシートなども売れている。「中国の方にすると、日本の爪切りは性能がいいらしい」(同氏)。

さらに、ストッキング、カラーリング、毛染め、ハンドクリーム、リップクリームなど、女性向けのものが多く売れている。高橋氏によれば、「日本の製品の質の良さをご理解いただいているようで、メイドインジャパンのものが選ばれる傾向がある」という。

免税対応店舗を拡充予定、将来的には異業種が集まった外国人向け商業施設も

この売上げ増に貢献しているのが、観光庁の方も話していた「口コミ」効果だ。口コミでマツキヨが安かったよとか、品揃えが広いよとか、そういった話が拡散する。さらに、地元のテレビ局で有名な女性が日本の観光スポットを巡るような番組があり、そうしたテレビ番組でマツキヨが紹介されているのを見て来る人も多い。

また、ドラッグストアが人気がある理由として、繁華街や観光地に隣接する、元々人が集まるところに店舗があることが挙げられる。免税対応をする店舗を増やす予定について高橋氏は、2月19日の旧正月(春節)までに80店舗の規模まで拡大する計画と話す。

さらに同社では、観光で来た訪日外国人に向けた専門の店舗の展開も計画しているという。1カ所に長い時間滞在するのが難しい訪日外国人が、買物を効率的に行なうことができるようにするためだという。

高橋氏はまた、2020年の東京オリンピックの開催に向け、同社単独でやるのではなく、異業種の店舗が入居する訪日外国人専門の商業施設ができることなどを視野に入れていることも示唆していた。

国際展開する銀聯カード、地方での利用増加を見込む

中国人が日本での買物に使うカードとして有名なのが銀聯カードだ。同カードはアジアを中心に世界で約45億枚(2014年末時点)発行されている国際ブランドだが、銀聯が日本に進出したのは2005年。日本で銀聯カードをショッピングで使える加盟店は、すでに約40万店(同)に達している。

銀聯カードには、クレジットカード機能とデビットカード機能があり、デビットの機能を使ってATMで現金を引き出すことも可能。日本でATMから現金を引き出す場合は、1万元相当の日本円を引き出すことができる。

訪日中国人の急増に伴い銀聯カードの利用も増えており、2014年は前年比倍増となり、免税効果が早速出ている。これまでは、銀聯カードを使う目的は、空港や街の免税店、百貨店、ショッピングセンター、大型電器店、ドラッグストアなどでの買物などが中心だったが、団体旅行に加え個人旅行も増えていることから、タクシーやレストランなどでの利用も増えているという。

観光庁のデータによれば、中国人のリピーターは現段階ではそれほど多くないが、銀聯カードが国際展開する中で中国人以外のカードホルダーも増えており、中国人を含めたリピーターの増加が予想される。それに伴い、これまでは大都市中心の利用が多かったが、今後は地方にもあるATMや店舗などでの利用が増える見込みだ。

海外発行カードで「日本円」を引き出せるセブン銀行のATM

銀聯カードをはじめとして、中国人観光客ら外国人観光客が海外で発行されたキャッシュカード、クレジットカードなどを便利に使えるのがセブン銀行のATMだ。セブン銀行のATMで海外発行カードが使えるようになったのは2007年。昨年は359万件の利用があり、外国人観光客の4人に1人が利用している計算だ。こうした海外観光客を意識した取組みを早期に開始した理由について、セブン銀行 営業推進部の伊藤浩太郎副部長は、「当社は創業以来、いつでも、どこでも、誰でも、安心して使えるATMサービスの提供に努めてきました。当然海外からのお客様にも便利にご利用いただけるようにする必要がありました」と語る。

セブン銀行ATMで使える海外発行カードのブランド

セブン銀行のATMは、ATM画面、明細票、ATM音声を4言語対応としている。海外発行カードを入れると、まず、ATM画面の表示を英語、中国語、韓国語、ポルトガル語の4つの言語から選択できるようになっており、選択すると、その言語で「いらっしゃいませ」とあいさつをする。

明細票も4言語に対応。何か理由があって利用ができなかったときには、単純に「お金がおろせませんでした」ということだけではなくて、どうしてそれができなかったという理由も、明細票に書かれるようになっている。

セブン銀行のATMは、全国のセブン-イレブン、空港・駅、観光地などに2万台以上設置されており、外国人にも見つけやすい。これから中国人観光客らが地方を観光することが増えた場合にも、セブン銀行のATMが強い味方となるはずだ。

セブン銀行のATMは2015年1月末時点で全国に2万台以上ある

さらに同社では昨年8月から、ATM検索アプリ「セブン銀行ATMナビ」をリリース。同アプリでは、現在地周辺にあるセブン銀行ATMを地図上で表示するだけでなく、スマートフォンのカメラで映した周辺の画像に方向と距離を重ね合わせて表示するため、ATMの位置を直感的に認識できる。画面表示は日本語と英語に対応しているが、文字を読まなくても分かるように工夫しているという。セブン銀行のATMは中国人観光客らの旺盛な買い物需要の取り込みに大きく役立っている。


いかがだっただろうか? 中国人観光客増加の背景に、観光庁、ドラッグストア、カード会社、銀行ATMなど、訪日外国人増加への取組み、対応がさまざまな場面で行なわれていることが分かっていただけたのではないだろうか。2020年のオリンピックに向け、こうした日本ならではのきめ細かい対応が、中国人をはじめとする多くの外国人の訪日増加につながることが期待される。