為替市場で円安が急速に進み、あらゆる業界で物価の上昇が相次いでいる。ほとんどが海外で製造され、日本に輸入されるiPhoneケースも例外ではない。そんな中、円安にも関わらず逆に価格を下げてiPhoneケースを販売するメーカーがある。株式会社KODAWARIだ。
同社が価格を下げて販売することにしたのは、安価でシンプルなデザインが好評のiPhoneケースブランド「CAZE」。これまでは量販店などでも販売していたが、現在はAmazon.co.jpや同社が運営する「SHOWCASE秋葉原」とそのオンラインショップ「SHOWCASE online」のみで販売している。円安にも関わらず、なぜ商品価格を下げることができたのか。その狙いとカラクリについて、同社代表取締役・田村洋祐氏を取材した。
――「SHOWCASE online」で販売中の「CAZE」ブランドのiPhoneケースが、以前よりもかなり安くなりました。たとえばこれまで2,600円で販売していた商品は、1,900円に。3,000円の商品は2,100円と、かなりの値下げになっています。海外から輸入する以上、円安では価格が上がるのが普通ですが、なぜこのようなことが可能なのでしょうか。
田村 「CAZE」ブランドの輸入代理店として価格を下げることができた理由は、ずばり販路を限定したからです。これまでは量販店やその他のショップでも販売していたのですが、現在はAmazonや自社で運営するSHOWCASEを通して弊社から直接ユーザー様に販売しています。販路を絞ることでコストを抑え、値下げを実現することができました。
――しかし、なぜ値下げする必要があったのですか? CAZEの特にThinEdgeシリーズなんかは十分に売れている人気商品ですよね
田村 円安になってインフレ2%とか言われていますが、僕らがそのままの形で販売を続けていこうとすると、2%どころでは済みません。価格を50%くらい上げないと利益が出ないんです。しかし50%も値上げすることは現実的ではありませんよね。輸入品の原価が上がるのはこっちの都合ですから、それにお客様はなんの関係もありません。経費を削減したり、粗利益率を削って価格をキープする手も考えられますが、僕らに関してはすでにギリギリの利益率でやっていたので、それも難しかったのです。残る手段として、販路を限定することにせざるをえなかったというところも正直あります。販路を絞ることはお客様にとって直接的なマイナスにはなりませんし、商品やカスタマーサポートの質を落とさなくても済みますから。
人気の「CAZE SoftShell case for iPhone 6」は、衝撃吸収力を備えた薄さ1mmのTPUラバーシェルケース。iPhoneのボタン、スイッチ類を上から覆いカバーする保護仕様。エメラルドグリーン、ピンク、クリア、グレイ、パープル、オレンジの6色を用意している。従来価格は2,300円、新価格は1,600円 |
――なるほど。とはいえ、良質な商品に関しては多少値上げしてもユーザーは納得するのではないかとも思うのですが。
田村 いえ、そうではないのです。CAZEは価格帯のレンジでいうと、高くても2,000円前後でした。このくらいのiPhoneケースを買うとき、クオリティについてはどう考えますか?
――それくらいであれば、そこまでは期待しないかもしれませんね。探せばCAZEのように良い商品が見つかるのかもしれませんが……。
田村 そうですよね。この金額ですと、極端な話クオリティが悪くてもユーザーは納得します。その中で良いものに出会えたらラッキーといったところだと思います。CAZEはまさにその「低価格帯の中で出会える質の良い商品」なのです。決して最高級品でもなければ特別な機能があるわけでもない。でも同価格帯の競合製品と比べると質が良い。だからこそiPhone 4Sが出た当初のCAZEのThinEdgeシリーズはAmazonのiPhoneケースカテゴリーでは長い間ランキングで1位をとっていました。iPhone 5シリーズでもそこそこ売れました。固定ファンもいます。ところがこれまで2,000円前後だった商品が、今の為替レートで考えると3,000円くらいになってしまいます。3,000円を超えると、ちょっと印象が変わりませんか?
――たしかに、買い手の意識としてもワンランク上のものを求めますね。
田村 そうなんです。2,500円~3,000円前後になると、一気に割高感がしてきてしまうんですね。これではいくら使い勝手がいいからって、お客様が本当の意味で満足できなくなってしまうんです。「円安でいろんなものの物価が上がってるからこんなもんかな。ちょっと高いな。」って思ってしまうんですね。CAZEはたしかに競合製品と比べて質が良いのですが、今はどこのメーカーも昔と違って良質なものを作っています。プロのバイヤーレベルだと「これは良いケースだね」と納得して頂けるのですが、一般の方ではそこまでの差は感じないかもしれません。CAZEは、そういった繊細な違いで勝負してきたケースです。僕は常にユーザーの立場で商品を見ることにしているのですが、少しだけ作りが精巧なプラスチックのiPhoneケースに対し余分に1,000円以上を払うかと言われると……たぶん、僕なら2,000円しない安い方を買うと思うんです(笑)。
厚さ1mmの薄型ポリカーボネートを使用した、カチッとはまるiPhone 6用バンパー「CAZE ThinEdge frame case for iPhone 6」。金属製のバンパーと異なり電波干渉の心配がない。本体を固定するためのエッジコネクタは2色付属しており、フレーム部分と異なったカラーを取り付けることでアクセントを加えられる。従来価格は3,000円、新価格は2,100円 |
――しかし、その競合製品も同じように値上げしているのであれば、CAZEの優位性は揺るがないのでは?
田村 全ての製品が値上げしているわけではありません。そもそも競合製品がすべて値上げされたところで、一般のお客様に「高いな」って少しでも思われてしまったらお客様を裏切ることになってしまいます。
――なるほど、よくわかりました。しかし、それほどまでに為替の影響は大きいものなのですね。
田村 大きいですね。最近いろいろな店舗を回って商品を見ていたりすると、「これがこんなにするの?」と感じてしまうこともあります。たぶんそれはみなさんも思っていることだと思います。
――今回、値下げすることについて社内からは反対意見は出なかったのでしょうか。
田村 というよりも僕自身が大丈夫なのか?と思っていますよ(笑)。でも他と同じことをしていても埒があかないし、購入するお客様の立場で考えたら、絶対にこっちの方が良いわけですからね。僕らとしては苦肉の策でもありますが、お客様の満足度を考えるとこれがベストだという考えです。そしてそれが長期の目線で考えると利益にもつながると思っています。
物価の上昇が著しい中、輸入品でありながら逆に価格を下げるという決断をした株式会社KODAWARI。理由を聞いて納得はしたが、だからといって営利企業においてこの決断をするのは並大抵のことではなかったはずだ。消費者にとって、このような販売戦略を取っている商品を探すことが、本当の意味での買い物上手なのかもしれない。ユーザーメリットを第一に追求する同社の挑戦は、今後も続いていく。