経済財政諮問会議の民間議員でもある、日本総合研究所理事長の高橋進氏が、日本記者クラブにて『2015年の経済見通し』に関する見解を述べました。
「消費税率を10%にするためには、この2年でデフレ脱却を確実にする必要」
まず、アベノミクスについて高橋氏は、
「今の経済政策は経済再生と財政健全化の2兎を追っている。安倍首相は二つの約束をした。一つは消費増税を一年半延期し、2017年4月に消費税率を10%に引き上げるということ。もう一つはプライマリーバランスを改善させ、2020年には黒字化を目指すということだ。まず、2017年4月に消費税率を10%にするためには、この2年間でデフレ脱却を確実にする必要がある。その成否は、今年何をするかで決まるだろう」
「そういう意味では、今年はラストチャンスであり、勝負の年だと言える。また、財政再建についても、実現できる枠組みを構築し、国や地方、そして国民的な取り組みがなければ、2020年に基礎的財政収支を黒字にするという約束は果たせない。今年を乗り切ることができなければ長期政権にはならない」
という分析、見通しを述べました。
「第1の矢と第2の矢は、第3の矢を放つ環境整備のためにあった」
また、6月に具体策が示されるアベノミクス「第3の矢」の成長戦略について高橋氏は、
「第1の矢と第2の矢は、言わば第3の矢を放つ環境整備のためにあった。金融緩和だけでなく、賃金が上昇し、好循環が生まれなければ実体経済は回復しない。そのためには小さな矢もいろいろと放たなくてはならない。『日本再興戦略』として日本の『稼ぐ力=収益力』を強化すると同時に、農業、医療、労働市場などの課題に積極的に対応していくべきであり、岩盤規制の打破も重要だ」
「少子高齢化のなかではあらゆる面において国民的な取り組みが必要となってくる。医療・介護の支出が伸びているが、日本では公的保険のお世話になりすぎている面があり、私たちの健康への取り組みが甘く、健康を維持するための国民運動もすべきだろう。公的分野は民間に託す方向にし、保険の範囲となるジェネリックと、そうでない医薬品との差額は自己負担にするといった仕組みも必要かもしれない」
「また、少子高齢化社会では、新たな働き手を生み出すことも重要だ。女性の社会進出を促進するためには、学童保育の拡充強化や女性就労を促す税・社会保障制度などの改革も不可欠だろう。時間ではなく、成果で評価される労働制度への改革や、正社員の多様化、また、外国人の積極的な活用も欠かせない」
「資産格差や所得格差と同様に、消費マインド格差から生じる地域格差も大きい」
「そして、資産格差や所得格差と同様に、消費マインド格差から生じる地域格差も大きい。都市部と比べると、地方都市の百貨店の売上げは回復が鈍いままだ。これは天候不順だけが原因ではなく、構造的な部分に問題がある。補正予算を組んで地域格差に対処しているが、補正予算だけでは不十分であり、やはり成長戦略で補うべきだ」
「海外からの訪日旅行者も全体では増加しているが、それはあくまでも成田や羽田、関西の空港を出発点にしたゴールデンルート(東京⇔箱根⇔富士山⇔関西)間を中心に、インバウンド消費が伸びているだけであり、他の地域では恩恵を受けていない。今年は他の地域においても、魅力ある観光地域づくりによってインバウンド消費を促し、地方創生につなげていく必要があるだろう」
との見解を示しました。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。