回路設計
以下では、透過型パルスオキシメータの回路例を示し、回路の各部について詳しく説明します。図4に示す回路は、心拍数と血中酸素飽和度の両方を計測します。
プローブ
この回路は赤色LED、赤外LED、フォトダイオードを内蔵した既製品のSpO2プローブを使います。各LEDはLEDドライバ回路で制御します。
指を透過した赤色光と赤外光は信号コンディショニング回路を使って検出します。この信号をデジタルシグナルコントローラ(DSC)が内蔵する12ビットADCモジュールに入力し、DSCでSpO2値(%)を計算します。
LEDドライバ回路
DSCが生成する2つのPWM信号を使ってアナログスイッチ(デュアル単極双投)を駆動する事で、赤色LEDと赤外LEDを交互にON/OFFします。LEDのOFF期間中に適正回数のADCサンプリングとデータ処理を実行するための十分な時間が確保できるよう、図5に示すタイミングに従って各LEDをON/OFFします。
DSCは、12ビット デジタル/アナログコンバータ(DAC)を駆動する事によってLED電流(輝度)を制御します。
アナログ信号コンディショニング回路
信号コンディショニング回路は、1段目のトランスインピーダンスアンプと2段目のゲインアンプで構成されます。これら2つの段の間はハイパスフィルタで接続します。
1段目のトランスインピーダンスアンプは、フォトダイオードが出力するμAレベルの電流をmVレベルの電圧に変換します。この電圧信号は、ハイパスフィルタ (バックグラウンド光の影響を排除するフィルタ)を通過します。
ハイパスフィルタの出力信号は、2段目のゲインアンプ (ゲイン:22、DCオフセット電圧:220mV)に入力します。このアンプのゲインとDCオフセットは、アンプの出力信号レベルがMCUのADCレンジ内に適切に収まるように設定しています。
デジタルフィルタの設計
アナログ信号コンディショニング回路の出力は、DSCが内蔵する12ビットADCモジュールに接続しています。この回路例ではMicrochipの「dsPIC DSC(dsPIC33FJ128GP802)」を使います。これにより、内蔵DSP機能だけでなくMicrochipのデジタルフィルタ設計ツールが利用できるという利点が得られます。
各LEDのON期間中に1個のADCサンプルを収集し、両方のLEDがOFFになるタイミングでもう1個のADCサンプルを収集します。体組織の透過光を計測する際に生じる問題に対処するため、フィルタ設計ツールを使って実装した513タップのデジタルFIRバンドパスフィルタでADCデータをフィルタ処理します。フィルタ処理後のデータからパルスの振幅を求めます(図6参照)。
このFIRバンドパスフィルタの仕様は以下の通りです。
- サンプリング周波数(Hz):500 通過帯域リップル(-dB):0.1
- 通過帯域周波数(Hz):1、5 阻止帯域リップル(-dB):50
- 阻止帯域周波数(Hz):0.05、25 フィルタ長:513
- FIRウィンドウ: Kaiser
まとめ
家庭用医療機器およびフィットネス機器市場は急速に成長しています。心拍数と血中酸素飽和度を計測可能な製品の需要は、今後も増え続けると予測されます。本稿で紹介したようなパルスオキシメータリファレンスデザインは、医療およびフィットネス機器の開発期間を短縮する上で非常に役立ちます。
参考資料
パルス酸素濃度計の設計
・Principles of Pulse Oximetry Technology(2002)、Oximetry.org
・Microchipのパルス酸素濃度計Webサイト
・Microchipの医療関連製品/ソリューションWebサイト
・Webster, J. G.(1997)、Design of Pulse Oximeters、Bristol and Philadelphia: Institute of Physics Publishing.
パルスオキシメータのシミュレーション
・Fluke Biomedical (2007)、Index 2XL SpO2 Simulator User Manual.
著者プロフィール
Zhang Feng
Senior Medical Applications Engineer
Microchip Technology
Marten Smith
Staff Medical Segment Engineer
Medical Products Group
Microchip Technology