医療およびフィットネス分野の電子機器には、真に革命的と呼べる変化が生じています。今日の健康管理機器市場における要求は多様で変化に富み、技術的課題に満ちています。かつては病院でしか見られなかったような装置が、今では在宅医療やフィットネスアプリケーション向けに使われています。
例えば、心拍数と血中酸素飽和度を計測できる民生向け機器も今では多く見られるようになりました。これらを計測可能なパルスオキシメータは、在宅医療機器や手首装着型のフィットネストラッカーとして市販されています。
本稿は、医療およびフィットネスアプリケーション向けパルスオキシメータの基本となる情報を提供します。また、心拍数と血中酸素飽和度の計測を実行可能なパルスオキシメータの回路例も紹介します。
オキシメータとは
オキシメータは血液中の酸素飽和度を計測します。この値は通常「%」で示されます。パルスオキシメータは血液中の酸素飽和度と心拍数を計測する非侵襲性計測器です。パルスオキシメータは、主として患者の指に装着するクリップ型のプローブを備えている事から容易に見分けられます。
パルスオキシメータにはスタンドアロン型もありますが、患者監視システムやウェアラブルフィットネストラッカーに組み込まれた物もあります。病院で医療スタッフが使うための装置もあれば、外来患者が自宅で使うための装置もあります。あるいはスポーツ愛好家がジムで使ったり、非与圧航空機のパイロットが使う場合もあります。
血中酸素飽和度とは
血中酸素飽和度はヘモグロビンの状態を調べる事によって計測します。ヘモグロビンは赤血球の酸素運搬色素であり、酸素を全身の組織へ運ぶ役割を担います。血液が赤く見えるのは、このヘモグロビンの色に由来します。ヘモグロビンには2つの状態があります。1つは、酸素と結合した状態である酸化ヘモグロビン(HbO2)です。もう1つは、酸素と乖離した状態である還元ヘモグロビン(Hb)です。
血中酸素飽和度(SpO2)は、全ヘモグロビン中の酸化ヘモグロビンの割合を示します。これは下式で表します。
SpO2=HbO2/(Hb+HbO2)
血中酸素飽和度は百分率(%)で表し、正常値は一般的に97%以上とされます。
パルスオキシメータによる血中酸素飽和度(SpO2)の計測原理
ヘモグロビンは、光の反射/吸収特性に非常に興味深い特徴を示します。例えば、HbはHbO2よりも可視赤色光を強く吸収(弱く反射)します。一方、HbO2はHbよりも赤外光を強く吸収(弱く反射)します。血中酸素飽和度はHbとHbO2の量を比較する事で求まるため、例えば身体の一部(指や手首など)に赤色LED光と赤外LED光を照射し、それらの透過光または反射光の強度を比較する事で計測できます。これには一般的に、(1)身体組織の透過光を計測する方法(等価型と呼ぶ)と(2)身体組織からの反射光を計測する方法(反射型と呼ぶ)があります(図1参照)。
病院で使われる患者監視システムのほとんどは、透過型のパルスオキシメータを内蔵しています。一方、最近の高機能なウェアラブルフィットネス機器の多くは、反射型のパルスオキシメータを採用しています。
パルスオキシメータによる心拍数の計測原理
血液は心臓が収縮する事によって全身に送り出されます。心臓が収縮するたびに血液が毛細血管に流れ込み、毛細血管がわずかに膨張します。心臓が収縮していない間は、毛細血管が収縮します。毛細血管の膨張と収縮は、身体組織を透過する赤色光または赤外光の強度に影響します。この変化は非常にわずかですが、パルス オキシメータは血中酸素飽和度の計測と同じ光源/センサ/回路構成を使ってこの変化を検出できます。
詳細な動作原理
一般的なパルスオキシメータは、酸化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)が示す赤色光(波長 =600~700nm)と赤外光(波長=850~1000nm)の吸収特性に基づいて、人間の血液の酸素飽和度(SpO2)を検出します。このタイプのパルス酸素濃度計は、人体の一部(指など)に赤色光と赤外光を交互に照射し、体組織を透過した光をフォトダイオード センサで検出します。
フォトダイオードは各LEDからの吸収されなかった光を受光します。この信号をオペアンプで反転します。反転後の信号は、図2に示すように人体(指等)で吸収された光の強度を表します。
赤色光および赤外光信号のパルス振幅(Vpp)を実効値(Vrms)に変換し、下式の比を求めます。
Ratio=(RedACVrms/RedDC)/(IRACVrms/IRDC)
SpO2は、この比と経験式に基づくルックアップテーブルを使って求める事ができます。心拍数はパルス酸素濃度計のアナログ/デジタルコンバータ(ADC)のサンプル数とサンプリングレートから求めます。
パルスオキシメータではルックアップテーブルが重要です。ルックアップテーブルは酸素濃度計の設計に応じて異なり、主としてSpO2レベルの異なる検体からの多数の計測値から導き出した校正曲線に基づいています。図3に、校正曲線の例を示します。