金融市場がギリシャ情勢に一喜一憂する状況
1月25日のギリシャ総選挙で圧勝した、急進左派連合(SYRIZA)を中心とした連立政権が始動した。ツィプラス首相の最初にして最大の課題は、SYRIZAの選挙公約だった財政緊縮・経済構造改革路線の巻き戻しと政府債務の減免を、ギリシャの債権者でもあるユーロ圏各国などと交渉し、理解を得ることだ。
2月2日には、バルファキス財務相が、政府債務の減免要請を撤回して、一部の債務を新発債に交換する計画を提案したとの報道があった。これを受けて、ギリシャとユーロ圏首脳との合意の可能性が高まったとの思惑からユーロが買われる場面があった。そうかと思うと、その翌日には、バルファキス財務相とドラギECB総裁の会談直後に、ECBが「投機的(ジャンク)」に格付けされているギリシャ国債を資金供給の担保対象とする特例措置の解除を発表。ギリシャの銀行の資金繰り懸念からユーロが急落するなど、金融市場がギリシャ情勢に一喜一憂する状況となっている。
EMU(経済通貨同盟)は不可逆的な統合、だが「アクシデント」が発生する可能性も
ツィプラス政権もギリシャ国民も、ユーロからの離脱、いわゆる「GREXIT」は求めていない。あくまでユーロ圏に留まりつつ、支援の条件を緩和しようとする、「条件闘争」を行っている。一方で、ユーロ圏もギリシャを引き留めておきたい思惑がある。ギリシャのユーロ離脱は、経済・金融市場に大きな混乱を招くだけでなく、他の国にそうした動きが広がる可能性もあるからだ。ギリシャ総選挙の前には、ドイツのメルケル首相らがギリシャの離脱の可能性に言及したとの報道もあったが、あくまでもギリシャの有権者に対するけん制だったと考えるべきだろう。
そもそも、EMU(経済通貨同盟)は不可逆的な統合であり、そこからの離脱は想定されていないし、そのためのルールも存在しない。もちろん、ルールという意味では、新しく作れば存在しうるわけだが、そうするためのハードルは相当に高いはずだ。
したがって、ギリシャと、EU(欧州連合)、ECB、IMF(国際通貨基金)の、いわゆる「トロイカ」やユーロ圏各国との交渉はどこかで合意点を見出すだろう。ただし、交渉の過程においては綱渡りが続くかもしれない。また、政権担当経験の浅いツィプラス政権が対応を誤って、ユーロ離脱を表明せざるを得なくなる、あるいはギリシャ国債が償還を迎えるなかで、つなぎ資金の手当てが遅れてデフォルト(債務不履行)が起きる、などの「アクシデント」が発生する可能性も完全には否定できない。ギリシャと、「トロイカ」やユーロ圏各国との交渉の行方から目が離せない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。