1月26日、国際経済に詳しい国際協力銀行の渡辺博史総裁(財務省元財務官)が日本記者クラブにて『2015年の経済見通し』に関する見解を述べました。

渡辺氏は英・フィナンシャルタイムズ紙やエコノミスト誌などに掲載された漫画を資料として提示しながら、現在の世界情勢、世界から見た日本の立ち位置、世界経済の行方などを分析しつつ、今後の見通しを明らかにしました。

国際協力銀行の渡辺博史総裁

「2015年は1990年代に起こった経済問題が再燃する年」

渡辺氏は、

「2015年は1990年代に起こった経済問題が再燃する年となるだろう。世界の統一性は崩れており、世界経済も様々な困難を抱えている」

「欧州では、ギリシャ問題が顕在化するなか、仏の経済も低調であることから政治経済が低迷し、これまでの独仏連携が崩れ、金融政策に対する考え方が他の欧州諸国とは違う独が浮いた存在になりかねない。ただ、2009年、2010年のギリシャ危機当時と比べれば、欧米銀行のギリシャ関連の債務は整理されているため、過去のようなショックを欧州に与えることはないだろう。そうしたなかで注意しておきたいのは、金融システムを含め欧州全体が求心力を失い遠心力が強くなっている点だ。人、モノ、情報、資金の移動や流れについては、今後も注視すべきだろう」

「また、米国経済は比較的順調に推移しているが、所得格差が拡大し、中間層が極端に縮小していることが問題だ。米国にはアメリカンドリームという思想があるために、これまで所得分配の均衡化に力を入れてこなかった。そのため、ずっと健全な格差改善策を見出せずにいる」

と世界経済全体を分析。

「世界から見れば日本円よりも人民元に対する関心が高まる傾向」

さらに、

「一方、アジアでは、中国も日本と同様に急速に高齢化が進行しており、5年後には人口13億人のうちの6億人の高齢者を働く世代が支える時代を迎える。中国と日本の違いは、高額な金融資産を持っているのが6000万人の高齢者である日本と比べ、中国の高齢者は資産を持っていないという点だ。そうしたなか、不良債権の処理や腐敗の撲滅などを進めることも課題となってくる」

「ただ、経済、金融面において、世界から見れば日本円よりも人民元に対する関心が高まる傾向にある。私たちは通貨記号である『\』のマークを日本円だと決めつけているが、世界からは人民元の通貨記号という認識も出始めているようだ。このように、世界からの信頼度が高まらない背景には、日本の経済政策が進展しないこともあるだろう。日本は『第三の矢』の政策について工程表を示すなどして具体化し、規制緩和を一つひとつ突破していく姿勢を世界に向けて発信していくべきだ」

と日本に対する世界の見方などについて解説しました。

「原油価格の下落傾向は今後一年から一年半は続く」

その他、世界中が注目する原油価格の動向について渡辺氏は、

「原油価格の下落傾向は今後一年から一年半は続くと見ている。1バレル当たり20~30ドルに下落する可能性もあるだろう。サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)など湾岸の主要生産国が、新興の原油開発を牽制する政治的な思惑があるなか、しばらくは減産しないという方針で進めそうだ。サウジアラビアは1バレル当たり13ドルになってもコスト割れしないため、仮に原油価格が20~30ドルまで下落しても問題ないという見方もある」

「原油安が進めば、石油産出国のロシアやインドネシアなどがマイナスの影響を受けるが、一方、インドなど石油輸入国は恩恵を受ける。また、原油安によるロシア経済の悪化が懸念されているが、ロシアの基金については4年分の蓄えがあり、外貨準備も3年分程度保有しているため貿易収支が単年度赤字になったとしても、今のところは持ちこたえられるだろう。米国や日本などでは、エネルギー関連企業やパイプライン需要が減少することにより、鉄鋼メーカーなども影響を受けやすい」

との見解を示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。