1月9日にスタートした『BSスカパー!』初の連続ドラマ、『破門』が面白い。これまで全8話中4話までが放送されているが、地上波ではまず見られない設定と描写の連続で、ひそかに熱狂的な支持を集めている。

私は全ての連続ドラマを見ているが、この『破門』はぜひみなさんに見て欲しい力作。2月6日(金)に「1~4話の一挙放送」という絶好の機会があり、それを逃さないためにも、このタイミングで作品の魅力を挙げていきたい。

連続ドラマ『破門』

「コンプライアンス無視?!」でやりたい放題

ドラマ好きの中で「WOWOW制作のドラマは面白い」という印象が定着して久しいが、ついに『BSスカパー!』もドラマ制作に乗り出した。第1弾の原作は、「第151回直木賞」を受賞した黒川博行の『破門』。最高峰のネタだけに、私も初回放送を見る前は気持ちがたかぶっていた。

そして1~4話を見た印象は、"どん底はそれ以上、堕ちない。殴られろ、騙されろ、最後に笑え。"のコピー通り、「とにかくヤバイ」、「本気で怖い」。何しろ登場人物は、金に群がる悪いヤツだらけで、ほとんどがヤクザ。しかもその描写は、一切の妥協を許さないエグさがあるのだ。

たとえば、第2話でこんなシーンがあった。赤い牡丹と蜥蜴の入れ墨を彫った敵が、両手に包丁を持って桑原(北村一輝)に襲いかかってくる。桑原は「凶器はアカンやろ」と言いながら包丁をギリギリでかわし、敵の腕を渾身の力で殴り、冷蔵庫のドアで何度もはさみ、最後には「悪い手や」とへし折ってしまった。さらに桑原はその数分後、別の人間を拉致・拷問して失神させるなど、過激なシーンが続く。

『MOZU』も裏社会とバイオレンスの描写で相当攻めたドラマだったが、WOWOWのコラボ先が地上波のTBSだったため、さすがにここまで残虐にはできなかった。まさに「コンプライアンス上等!」とケンカを売っているかのような挑戦的なレベル。ここまでやり切れるのは「有料放送だからこそ」であり、『BSスカパー!』初ドラマの気合がビンビン伝わってくる。

次々に訪れるピンチと衝撃

ここまでバイオレンスな作風だと、「見ていられない」と敬遠する人が多くなるものだが、このドラマには不思議なほどそういう感覚がない。その理由は2つある。

1つ目は、ピンチと衝撃が息つく間もなく訪れるスリリングさ。危ない世界に巻き込まれる建設コンサルタント・二宮(濱田岳)のピンチに「ドキドキ」、それを破天荒に打ち破るイケイケヤクザ・桑原の強さに「ゾクゾク」……サスペンスとアクションのバランスが実にいいのだ。

こだわりを感じる映像美もスリリングさを際立たせている。まず暗めのトーンに抑えた大阪の街並みが怪しく美しい。そこに"男臭い"ハードボイルドを絡めることで、危険なムードで満ちた独自の世界観を醸し出している。さらに、スローモーションを多用したド迫力のアクション、リアリティあふれる賭場での博打、一万円札が宙に舞うシーンなど、ホレボレさせられる演出やカメラワークが多い。

そもそもストーリーは極めて難解。複雑な人間関係や思惑が渦巻いているだけに、集中して見なければアッと言う間に置いていかれるレベルだ。しかしこのドラマは、それらを説明するための安易なナレーションやテロップは入れない、という美学を貫いている。こんなクオリティの追求や、視聴者に媚びない姿勢こそが、BSドラマの魅力なのかもしれない。

カメレオンとヘタレが本領発揮!

2つ目の理由には、やはりダブル主人公を挙げたい。まずコワモテの桑原。二宮を子ども扱いしたり、悪党たちをチンチンにやっつけたり、とにかく豪快なのだが、怖いだけでなくクスッと笑わせてくれる。たとえば、「オレはな、暴力が一番嫌いなんじゃ」と言いながら殴る。すぐさま助けた二宮も殴る。さらに、「(本当はのびないパスタの)ナポリタンのびるんで助けに行かれへん」と言いつつ、実は二宮が捕らえられた場所の隣店にいたなど、どこか憎めないのだ。

一方、口だけは達者な二宮は、ヤクザだった父親の呪縛に悩み、全くモテず、博打で大負けし、愛想笑いでごまかす小悪党。しかし、桑原との出会いで、欲望むき出しの笑みを見せるようになるなど、徐々に変化のきざしを見せていく。初回放送で見せた「あの瞬間、あの興奮、手のひらの熱、今まで感じたことのない熱、くすぶっていた何かに火がついた」のセリフには心を揺さぶられた。

桑原を演じる北村一輝は、『あなたの隣に誰かいる』の殺人鬼、『夜王』のカリスマホスト、『バンビ~ノ!』の歌う給仕長、『テルマエロマエ』のローマ人、『トリック』のオネエ医師など、毎回違った姿を見せる日本屈指のカメレオン俳優。ヤクザ役もお手の物で、「役のために前歯を抜いた」など役者魂を称えるエピソードも多い。

二宮を演じる濱田岳は、160㎝と小柄なため『プロポーズ大作戦』などで演じたヘタレ役が多かったが、近年は進化が見える。『終電バイバイ』で毎回終電を逃すサラリーマン、『偉大なる、しゅららぼん』で「力」を持つ殿の役でいずれも主演。さらに昨年は、大河ドラマ『軍師官兵衛』では主人公の右腕・栗山善助を演じたほか、『HERO』では十八番のヘタレ役も堂々とこなし、知名度をさらに挙げた。

役の上では全くかみ合わない2人なのだが、そこは演技派同士。お互いの良さを引き出すような、テンポのいい大阪弁のかけ合いで楽しませてくれる。「このコンビを見るだけでも損はない」とおすすめできるキャスティングなのだ。

金曜深夜に自宅でオールナイト"上映"

前述したようにアクションは明快である一方、ストーリーは難解。それだけに一度見た私自身、2月6日の一挙放送で「改めて流れをつかみ直そう」「見落とした謎や伏線を探そう」と楽しみにしている。もちろん初めて見る人にも、人間関係がつかみやすい一挙放送をおすすめしたい。スピーディーかつスリリングな展開にどんどん引き込まれて、アッという間の4時間になるだろう。

ちなみに、一挙放送が行われるのは、金曜の深夜0時から4時。つまり、オールナイト上映のようなものだ。「あの世界観を暗く静かな深夜にぶっ通しで見たら、どんなに怖いだろう……」、そんな興味を抱いてしまう。もしあなたの時間が許すのなら、一挙放送で謎や伏線が広がっていくステップや、主人公コンビの関係が変わる様子を味わってみて欲しいと思う。

木村隆志

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。