ニオイが独特な食べ物は世界中にいろいろあるが、日本の代表選手といえば「くさや」だろう。ムロアジやトビウオなどの魚を「くさや液」と呼ばれる漬け汁に漬け込み、干物にした食品だ。独特の臭気が特徴で、一説では、江戸時代に江戸の魚河岸で「臭いから」くさやと呼ばれ、それが名前になったとも言われている。
くさやと初遭遇
筆者は来し方23年間くさやを食べたことがなく、特に食べたいと思ったこともなかった。ゆえにその本当のニオイも味も知らず、「まぁクセェんだろうな」と漠然としたイメージを抱きながら生きてきた。実際のくさやを知らない、そうまだ子どもだったのである。
そして大人になる時がきた。
今回縁あって入手したのは、東京・三宅島の清漁水産で作られているトビウオのくさやだ。真空パックになっているので、開封する前はうわさに聞くような刺激はない。そもそもくさやが強烈なニオイを発するのは、加熱する時に限られるそうだ。
「なんだ、それなら安心」と顔の近くでパックを開封した途端、鼻を刺すようなニオイが直撃! 不意打ちに思わず顔がのけぞる。加熱前でも結構ハイレベルだった。しかしその独特の発酵臭には、クサいと分かっていながらもう一度かぎたくなってしまうような不思議な奥深さがあった。ま、実際は二度と顔を近づけていないのだが。
焼いたニオイに戦慄する
くさやの調理法は普通の干物と同様だ。今回はオーソドックスに、焼いていただくことにした。自宅の台所にあるフライパンに1尾まるごとは入りきらないので、半分に切ることにした。
ところがぎゅっと締まった身は相当な弾力で、包丁がなかなか通らない。四苦八苦しているうちに、くさやを押さえる左手にどんどんニオイが移っていく。手袋をするべきだったと気づいたときには手遅れで、なんとか切り終えた筆者の手からそれは半日消えなかった。
切り終えたところで、半尾ずつ弱火でじっくりと焼いていく。フライパンの上に置いて熱が通り始めると、評判どおりにくさやのアイデンティティが爆発的に強まった。加熱前にかいだときの比ではない。牧場や動物園を歩いているとき、偶然ものすごくニオイのきつい場所を通ってしまった経験はないだろうか。あの空気をぎゅっと凝縮して鼻の穴に無理やり詰め込んだような感じだ。焼きながら、飼育委員だった小学生の頃を思い出していた。
くさやは旨い!
苦しみながらも焼き上げ、皿に盛り付ける。薬味としてユズとネギを添えてみた。くさやにもほどよく火が通り、見た目は普通の干物と変わらない。だが、盛り付け直後はまだニオい、「我はくさやである!」と主張している。
あわせてムロアジのすり身も頂いていたので、こちらはつみれ汁にしてみた。ご飯をセットすれば「くさや定食」のできあがりである。ちなみに、加熱後のくさやは多少ニオイが落ち着くらしく、調理時ほどのインパクトはなかったのでご安心いただきたい。
早速くさやを一口。調理中は散々に言ってしまったが、ぎゅっと凝縮された旨みと強めの塩味がたまらない! クセのある風味もアクセントになり、ご飯にはもちろん、焼酎や日本酒とも合いそうだ。
焼きたてのくさやがおいしいのは言うまでもなく、冷めてしまったくさやはお茶漬けやチャーハンの具としてもおいしくいただけるそうだ。くさやに挑戦する際はぜひお試しを。