パナソニックが、コミュニケーションカメラ「LUMIX DMC-CM1」の国内発売を正式に発表した。昨年9月にドイツ・ケルンで開催された「Photokina 2014」で初公開されたCM1は、フォトキナスター賞を受賞するなど発表直後から注目を集め、11月にドイツやフランスで先行発売。いよいよ日本でも、2,000台という数量限定ながら、3月12日から販売が開始される。
1.0型の大型センサーや新開発のライカレンズ、LTE通信機能を搭載し、4K動画が撮影可能な世界最薄のコミュニケーションカメラ「LUMIX DMC-CM1」は、果たしてどんな狙いから開発されたのか。パナソニックのAVCネットワークス社副社長兼イメージングネットワーク事業部長兼ネクストモバイル商品開発推進室長である杉田卓也氏に、LUMIX DMC-CM1を中心としたパナソニックのデジタルカメラ事業の取り組みについて聞いた。
――いよいよ日本でも、「LUMIX DMC-CM1」を発売します。どんな狙いから誕生した製品なのでしょうか。
杉田氏 ひとことでいえば、一眼カメラの画質を、薄さ約15.2mmのポケットサイズに凝縮した製品であり、通信とカメラを融合した新たな提案を行うコミュニケーションカメラだといえます。
スマホとしての機能はAndroid 4.4に任せる一方で、1.0型の大型センサーを搭載し、デジタルカメラとして妥協がない性能を実現しました。焦点距離28mm(35mm判換算)のF2.8の単焦点レンズを搭載しており、ゆがみのないきちっとしたレンズを使うという点にもこだわった。ノイズを効果的に抑える高速画像処理ヴィーナスエンジンを搭載したのも、きれいな写真を取るためのこだわりです。
DMC-CM1で撮影した画像を拡大すると、蝶の羽や花粉の細かい様子がわかります。そして、ボケ感もきっちりと表現できる。スマホのカメラの性能が高まっていますが、iPhoneではこんな写真は撮れません。私も飛行機から富士山を撮ってみたんですが、1.0型大型センサーならではの画質が得られ、レタッチ機能によって様々な色調を選んで加工できる。さらにそこから気にいったものを簡単な操作で、すぐにソーシャルメディアにあげるといった使い方ができる。実際に製品を発売してから、写真の品質と通信機能に対しての評価が高いことを感じます。
――DMC-CM1は、通信からスタートした製品なのでしょうか、それともカメラからスタートした製品なのでしょうか。
杉田氏 パナソニックは、1997年に「ピノキオ」という製品を開発し、NTTパーソナルから発売しました。実は私が作った製品なのですが(笑)、これはPHS機能を搭載した情報端末であり、当時は「パーソナルコミュニケーター」という呼び方をしていました。世界初のスマホといってもいいのではないでしょうか。本体サイズはCM1よりちょっと大きいが、電話もメールもできて、フルブラウザも搭載していた。しかし、これは大失敗しました。まだiモードのサービスもなく、いまほどメールが普及してない時代。出すのが早すぎたといえます。
一方で、私は3年前にデジカメ事業を担当したときに、すべてのLUMIXに通信機能を搭載することを目指し、一昨年春には、LUMIXの全シリーズにWi-Fi機能を搭載できました。通信機能ではパナソニックは先行できたと考えていますし、いまではWi-Fiのないカメラは使えないという声がLUMIXユーザーからも出ています。
今回のCM1は、スマホか、デジカメかというと、それはデジカメです。ですから、キャリアを通じて販売するということは現時点では考えていません。ただ、カメラと通信という異なる技術をパナソニックが蓄積していたからこそ実現できた製品であることに間違いはありません。
私はイメージングネットワーク事業部を担当する一方で、ネクストモバイル商品開発推進室も担当しています。ここは、パナソニックモバイルコミュニケーションズでスマホをやっていた社員が在籍している組織で、通信の専門家集団です。この2つの組織が連携したからこそ、実現できた製品だといえます。
パナソニックが、すべての家電に通信を入れようと考えるなかで、一番早くそれを実現できる製品のひとつがデジタルカメラ。ここにLTEを入れようと考えたわけです。スマホだったら1.0型センサーなんて絶対に入りません。その一方で、カメラのチームだけでは、このきょう体のなかにLTEのアンテナを仕込むということはできなかった。CM1はデジカメと通信のチームが融合したからこそ完成した製品だといえます。
――DMC-CM1のターゲットユーザーは誰になりますか。
杉田氏 全世界のフォトディーラーから、フォト市場の活性化の可能性を持った製品だという声をいただいています。ただ、12万円もするカメラですから、その価値を本当にわかっていただける方に訴求していきたいと考えています。
昼食に食べたラーメンを撮影する際に、スマホで気軽に撮影したいという人がきっと大半を占めるでしょう。しかし、そのうちの数%の人は、もっといい写真を撮って、アップしたいと考えている。スマホの写真とはまったく違う価値に対して、「おおっ」と思っていただける人たちや、1.0型センサーの良さを理解していただける人たちに向けた製品だと考えています。手応えはいいですね。
ただ、DMC-CM1がどれだけ市場に受け入れられるのかという点ではまだ手探りです。ですから、日本でも2,000台限定という、テスト販売に近い形態をとっています。フィードバックをもとに、次の進化につなげていきたいですね。また、欧州では、SIMを自動販売機で売っていますから、量販店でカメラ単体を購入して、あとは個人がSIMを購入するという提案ができますが、日本や米国ではもう少し環境が整わないと、こうした売り方をしにくい。SIMフリーの義務化やMVNOの動きといった通信市場の変化も捉えながら、トライアルをしていきたいですね。