2月スタートの『セカンド・ラブ』を除く、全18作がそろった2015年の冬ドラマ。人気続編、ベストセラー原作、恋愛、刑事……「ここ数年、記憶にない」と言い切れるほど、多彩なジャンルの力作がそろった。
初回放送が終わった中、視聴率で絶好調なのは、新婚の杏がヒロインを務める『デート』(14.8%)、シリーズ3作目となる『DOCTORS3』(14.6%)、ミステリアスなテーマで注目を集めた『○○妻』(14.4%)、草なぎ剛の復讐劇『銭の戦争』(14.1%)の4作。その一方、ひとケタの苦しいスタートとなった作品もあり、明暗が分かれた。
しかし当然ながら、ドラマの面白さと視聴率はあくまで別問題。今回もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。
冬ドラマの主な傾向は、[1]続編&刑事モノが激減 [2]ドラマ界最高峰の脚本家がズラリ [3]"働く女"たちが大活躍 [4]恋愛と夫婦モノへの回帰 [5]悲壮感ただよう復讐劇 の5つ。
傾向[1]続編&刑事モノが激減
昨年は続編モノが多く、『HERO』『ドクターX』などのヒットも目立ったが、年が明けたら『DOCTORS3』の1作のみに。これは各局が一定の視聴率が見込める安全策を選ばず、「オリジナル作品で勝負に出ている」ということ。つまり、各局とも意欲作を投入してきたのだ。
また、ここ数年間連ドラの中心となっていた刑事モノも『警部補・杉山真太郎』『ウロボロス』の2本のみ。ちなみに前クールは4本、1年前は6本だったから明らかに減っている。「テレビ朝日の連ドラが全て刑事モノ」という時期もあり、結果も出ていたため、各局が追随して刑事モノばかりになり、視聴者が完全に飽きてしまったのだ。現在、刑事モノは『相棒』など安心して見られる作品に絞られた感があり、今後は昨年好評だった『BORDER』のように、高品質かつ斬新さがなければ厳しそうだ。
傾向[2]ドラマ界最高峰の脚本家がズラリ
ここまで豪華のビッグネームがそろったケースは見たことがない。2015年の冬ドラマには、"現在の日本ドラマ界トップ10"に入る脚本家がズラリそろった。
『リーガルハイ』『鈴木先生』の古沢良太(『デート』)、『最高の離婚』『Woman』の坂元裕二(『問題のあるレストラン』)、『家政婦のミタ』『女王の教室』の遊川和彦(『○○妻』)、『ガリレオ』『龍馬伝』の福田靖(『DOCTORS3』)、『昼顔』『白い巨塔』の井上由美子(『まっしろ』)、『ラスト・フレンズ』『大奥』シリーズの浅野妙子(『美しき罠』)、『フリーター、家を買う。』『僕の生きる道』の橋部敦子(『ゴーストライター』)、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』の八津弘幸(『流星ワゴン』)と、名前と作品名を見ただけで、期待感が高まってしまう豪華さだ。
続編&刑事モノが減った分、増えているのはオリジナル作品。その理由は、ひとえに「実力派の脚本家がそろった」から。さらに、脚本家をバックアップするプロデューサー、脚本を最大限生かす演出家にも各局のエース級をそろえ、万全の体制でヒットを狙っている。
傾向[3]"働く女"たちが大活躍
では、実力派の脚本家たちは、どんなテーマを選んでいるのか? 今クールの主なテーマは3つ。
1つ目は、女性の仕事モノ。この連載でも何度か書いているが、現在の連ドラにおけるコア視聴者は30~40代の女性であり、当然女性目線を意識した作品は増える。さらに、同性からの共感を得やすいのは、いまだ男性社会が色濃く残る仕事の世界で、困難にめげず奮闘している姿なのだ。
『まっしろ』は看護師、『全力離婚相談』は弁護士、『出入り禁止の女』は新聞記者、『ゴーストライター』は作家、『問題のあるレストラン』は飲食店経営と、職業は多彩だけに、抱える悩みも「女の戦い」「スランプとジレンマ」「セクハラとパワハラ」などそれぞれ異なる。また、『○○妻』『残念な夫。』は、"専業主婦"を女性の職業という観点から描いていた。
職業モノの5作は女性ウケのいい女優を、主婦モノの2作は男性ウケのいい女優を起用しているのも興味深い。
傾向[4]恋愛と夫婦モノへの回帰
2つ目のテーマは、恋愛・夫婦モノ。同テーマはこのところ絶滅気味だったが、前々クール『昼顔』、前クール『きょうは会社休みます。』の連続ヒットで、復活のきざしを見せている。
最大の注目は、"ラブストーリーの聖地"月9にラインナップされた『デート』。杏と長谷川博己という新鮮なコンビに、予定調和のない古沢良太の脚本で、幅広い年齢が楽しめるドラマになっていた。
さらに、ミステリアスなヒロインの"究極の愛"を描いた『○○妻』、"女の過激なつぶし合い"を全面に出した『美しき罠』、現代の夫婦危機をコミカルに描いた『残念な夫。』、深田恭子&亀梨和也が大人の恋に挑む『セカンド・ラブ』とさまざまなカップルの愛を追求している。
いずれかの作品がヒットしたら、恋愛・夫婦ドラマへの回帰はさらに進んでいくだろう。
傾向[5] 悲壮感ただよう復讐劇
3つ目のテーマは、復讐モノ。『半沢直樹』の大ヒット以降、『三匹のおっさん』『天誅』『夜のせんせい』『花咲舞が黙ってない』など"勧善懲悪"モノが大増殖した一方、もう1つの切り口である"復讐"モノは『アリスの棘』くらいだった。
しかしここにきて、4作もの復讐劇が同時ラインナップ。しかも、極悪金融業者から失った全てを取り返す『銭の戦争』、女性同士が復讐の応酬をする『美しき罠』、ポンコツ女たちがごう慢男たちにリベンジする『問題のあるレストラン』、刑事と暴力団員のコンビが強大な敵に挑む『ウロボロス』と、世界観は見事に分散された。
「金」「愛」「性別」「異職コンビ」と軸になるものが異なるだけに、「爽快感いっぱい」「虚しさがただよう」などのさまざまなラストが見られるだろう。
これらの傾向を踏まえたオススメは、共演の松重豊いわく「変態」コンビの恋愛模様が理屈抜きで楽しい『デート』。コミカルの陰に現代の恋愛観や社会問題をひそませた脚本のクオリティは高い。
さらに、深夜の喜劇として計算し尽くされた『怪奇恋愛作戦』。毎話ラストで確実にホロリとさせてくれそうな『流星ワゴン』。女性メインのドラマ本流的な設定で、若手女優が熱演必至の『問題のあるレストラン』。キャッチーな題材を丁寧に扱い、手をかけてドラマ化した『ゴーストライター』と続く。
一方、これからの巻き返しに期待したい3作は、キャストと役がハマリ切らず、内容も『家政婦のミタ』と似ていた『○○妻』。主人公のキャラも事件や犯人も既視感が強い『ウロボロス』。コミカルに寄りすぎてリアリティ不足の『残念な夫』。いずれも期待値は大きく、主要キャストが役をつかみ、物語が大きく動く終盤に輝きを放つ可能性を秘めている。
日本テレビ、TBS、フジテレビは無料見逃し配信があり、その他もオンデマンドで見られるため、チェックしてはいかがだろうか。
【おすすめベスト5作】
No.1『デート ~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系 月曜21時)
No.2『怪奇恋愛作戦』(テレビ東京系 金曜24時)
No.3『流星ワゴン』(TBS系 日曜21時)
No.4『問題のあるレストラン』(フジテレビ系 木曜22時)
No.5『ゴーストライター』(フジテレビ系 火曜21時)
【「がんばって!」の3作】
『○○妻』(日本テレビ系 水曜22時)
『ウロボロス』(TBS系 金曜22時)
『残念な夫。』(フジテレビ系 水曜22時)
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。