現在、500億円規模、2017年にはその倍の1,000億円にまで成長するとも言われる日本のRTB(Real Time Bidding)市場。この成長の牽引役となり、創立5年目にして業界トップクラスにまで上りつめたのが株式会社ジーニーだ。この躍進のきっかけは、ある大失敗をしたことらしい。創業4年目に起きたその大事件について、代表取締役CEOの工藤智昭さんに伺った。

ジーニー 代表取締役CEO 工藤智昭さん

驚異の成長を遂げるRTB市場の最前線

ジーニーの2014年度の売上高はすでに数十億円/年(2014年12月末現在)。ちなみに13年度には、売上成長率1,474%を記録している。この圧倒的な数字が評価され、同年のテクノロジー企業の成長率ランキング「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 日本テクノロジー Fast50」で第4位を受賞した。この伸び、おだやかじゃない…。

――そもそも、ジーニーって何をしている会社ですか?

工藤さん「例えば、パソコンのウェブサイトや、スマホのアプリを見ていると、『20代の男性サラリーマン必見!』なんて、自分にぴったりの広告が出てきますよね。その裏側で働いているのが、僕たちの『Geniee SSP』。このシステムがあなたの性別や年代、職業などの属性を瞬時に判断して、『あなたに広告を見せたい会社』に一斉にオークションに入札してもらうんです。その結果、一番高い値段をつけた会社が、あなたに広告を見せる権利を手に入れるのがRTB。ほかにももっと複雑なシステムがあり、技術的なレベルはどんどん高くなってきています」

ジーニーの社員数は約110名(2015年1月現在)。その平均年齢は26歳、社内役員の年齢は30~33歳という。会社も若いけれど、社員もびっくりするほど若い。

――会社はどんな雰囲気ですか?

工藤さん「仕事に対しては、すごく真剣。自分の業務やプロダクトへのこだわりは尋常じゃありません。でも、社員同士はすごく仲が良くて、営業とかエンジニアとかいう部署の垣根を越えて、いつも社内チャットで盛り上がっています。

若い人も、物怖じしないでどんどん意見を言えるので、コミュニケーションは取りやすいですよ。ときには遠慮がなさ過ぎて、『友達じゃないんだけど…』なんて思うこともありますが(笑)」

創業4年目の大事件

これまで夢のような右肩上がりの成長を遂げてきたように見えるジーニーだが、創業4年目の2013年、急減速したことがある。

――そのとき、会社に何が!?

工藤さん「システム事故は起きるし、エンジニア同士がトラブって、仲が悪くなるし…。もうさんざんな目に遭いました。さらに、大きな取引先を失って月1,000万円もの赤字が出たんです。その後の9カ月間で黒字化しないと、キャッシュが0になってしまうというところまで落ち込みました」

――原因は何だったんですか?

工藤さん「実はこのとき、一気に20~30人という大量採用をしたんです。当時の社員数が50人ほどでしたから、会社の半分が新人という状態。業績も雰囲気もどん底まで落ち込みましたから、結局そのとき採用した人のほとんどが辞めてしまいました」

――この失敗から学んだことは?

工藤さん「自分たちの文化を大切にする、ということですね。例えばチームワーク。部署やプロジェクトの壁を越えて、『ジーニーのプロダクトだから、自分の担当じゃなくても協力したい』と自然に考え、行動できるのが僕らの文化なんです。それにアジャスト(適合)してくれる人を慎重に選ばないといけないな、と」

ノリのよさも重要

――具体的にはどんな採用試験を?

工藤さん「面接の回数を増やします。実は、世界的な大ヒットゲーム『クラッシュ・オブ・クランズ』を開発したフィンランドの『Supercell』という会社では、1人当たりの面接回数が16回と聞きまして。僕たちも現場の人や経営陣など大勢が参加して、僕たちと価値観や考え方が合うかどうか、しっかり見極めたいですね。価値観は近い方がいいし、性格的にもいい人に入ってもらいたいです」

――ちなみに工藤さんは面接でどんな質問をしますか?

工藤さん「僕の面接は評判が悪いんです(笑)。例えば『休日には何をしますか?』『どんな友達と仲がいいですか?』とか、質問の意図が分かりにくいって。でも、そういう質問には僕なりの意図があって、その人の本当の姿や人生観を確かめているんです。それに、こういう想定外の質問に柔軟に対応する能力も、僕たちの会社では重要ですし」

取引先が急に増える、新規プロジェクトが突然始まるなど、同社では業務フローの転換が日常茶飯事だという。そうかと思えば、会社上場に向けたプロジェクトに全社を挙げて取り組もうと号令がかかったりもする。社員の不満は出ないのだろうか?

工藤さん「正直、仕事はハードだし、急成長している分、忙しい会社です。でも、その代わりに土日は完全休業ですし、社員全員に家族全員分の旅行券を支給したり、月3,000円のマッサージ手当をつけたりと、癒やし的な手当も充実させています。1年程度の育休・産休を取る人もいて、それも男性のほうがしっかり休んでいますね。そのせいか、昨年は結婚した人が3人、子どもが生まれた人が5人いました」

新人が10億円の商談に

選び抜かれた人材は、現場でどのように成長していくのだろうか。

工藤さん「営業スキルやエンジニアのテクニックなどは、各部署で丁寧に指導します。やる気のある新人ばかりなので、1年目から大活躍する社員もいますよ。例えば入社1年目にして、ある分野についてトップクラスの実力をつけたルーキーがいて、この2月からベトナム人スタッフに技術指導をするために、海外赴任することになっています」

――指導するうえでのコツは

工藤さん「出し惜しみしないことですね。僕自身もそうですが、『学んだことはすべて下の人に教える』ということを徹底しています。それから、現場を経験させること。以前、新卒で入社した人を10億円の商談に同行したことがあります。だいぶビビってましたが(笑)、ミーティングでどんな話をするかなど、事前に一緒に詰めたりもしたので、いい経験になったと思います。その社員は入社1年目で数億円の商談を決めて、今は海外拠点の責任者として活躍していますよ」

正直、マイナス評価はほぼない

ジーニーには、社内文化を明文化した『Value(行動規範)』がある。そこには「チームワーク」や「ベスト・プレイス(ジーニーらしい職場を創る)」についても言及されている。

工藤さん「Valueは査定にも組み込まれています。例えば営業職の場合、目標の達成率が80%でも、『自分の業務には直結しないけれど、他のチームのサポートをした』など、Valueに基づいた行動をすればマイナスにはなりません。数字に表れない部分もきちっとすくい上げてみると、ほとんどの社員が平均かそれ以上。みんな真面目だし、がんばっていますから」

――それなら査定で悩まなくて済みますね

工藤さん「査定については、評価の基準や、それが給料にどう反映されるかなど、原理原則をすべて公開しています。他の人の仕事ぶりも見えているので、不満はあまり出ませんね。その代わり、ジーニーはクォーター(四半期)制なので、査定も3カ月に1度。査定される側もする側もけっこう大変かもしれません(笑)」

――査定ではどんなことを?

工藤さん「社員1人1人が、自分の目標達成度を振り返りながら、次のクォーターの目標を設定します。その目標もみんなに公開されますから、高い方がかっこいい文化はありますね。最初から楽にできそうな低い目標を立てて、それを達成したとしても『すごいね』とはなりません」

ちなみに、ジーニーとしても「創立10年目にあたる2020年、東京オリンピックの公式スポンサーになる」という壮大な目標を掲げている。今のペースで成長を続けたら、その実現も夢じゃない、かも。