米Googleがモバイルペイメント企業の米Softcard買収で交渉を進めているという話が出ている。SoftcardはVerizon Wireless、AT&T、T-Mobile USAの米携帯大手3社によって設立されたジョイントベンチャーで、SIMカードに決済情報を記録してNFCによる決済を可能にする「ウォレット」と呼ばれるサービスの提供を行っている。両者ともに同種のサービスを提供開始して1年以上が経過しているが、決して利用が進んでいるとは言い難い。そうした環境下、「Apple Pay」が登場し話題を集めるなかで、改めて対抗していくことが狙いにあるという。

同件はWall Street JournalとTechCrunch (http://techcrunch.com/2015/01/16/softcard/)が1月16日(現地時間)に報じている。ともに情報源は明示していないものの、関係者からの話として伝えている。

Softcardはもともと「Isis Wallet」の名称で一昨年の2013年末に全米ローンチが行われたサービスで、その後、同名の団体が悪評とともに世界的知名度を持ったことを受け、「Softcard」の名称で2014年夏に再ローンチされた。

Softcardは「SIMカード方式」と呼ばれる「セキュアエレメント(SE)」関連情報をSIMカードに記録するNFC決済方式を採用しており、SEを携帯端末に直接内蔵する方式(eSE)を採用したGoogleの「Google Wallet」と対立する存在にあった。eSE方式は端末メーカーや個別のサービス事業者が直接決済情報を管理するのに対し、SIM方式はいったん携帯キャリアを経由して決済情報にアクセスする必要があるため、その権限を巡って両者の間で長きにわたって綱引きが行われていた。

Google Playで配布されている「Softcard」アプリイメージ

Googleが「Google Wallet」をローンチする際、同サービスを利用するためのアプリの取り扱いをVerizon Wirelessが拒否していたという話は有名で、Softcardのローンチまでの時間稼ぎと、Sprintを除く携帯キャリア連合のGoogleへの牽制が狙いだったと考えられている。

実際、初期のGoogle Walletローンチに失敗したGoogleはサービス利用者増加も見込めず、最終的に責任者が同社を離れるなど、実質的にプロジェクトが頓挫した状態にあった。その後、同社はAndroid 4.3 Jelly Beanで導入された「Host Card Emulation (HCE)」へとリソースを振り向けるようになり、一連の携帯キャリアとの闘争から一歩身を引く体制を採っていた。一方で、Googleの牽制には成功した携帯キャリア連合だが、肝心のSoftcardの利用はそれほど進んでおらず、非常に苦しい戦いを強いられているとみられる。

TechCrunchによれば、Softcard売却の交渉価格は1億ドルにも満たず、これが同サービスの苦しい現状を反映したものだという。もしGoogleがSoftcard買収で合意した場合、同社のサービスインの障害となっていた相手を取り込むこととなり、両者相打ちで弱っていたところを共通のライバル出現で対抗のために手を組むことにしたという、皮肉な流れといえるかもしれない。

また買収を経て興味の対象となるのは、Appleへの対抗という部分よりも、一度は後退のスタンスを見せたセキュアエレメントによるNFC決済という仕組みにSoftcard買収でGoogleがどの程度本気で取り組むのか、そしてHCEとの棲み分けや両技術の共存など、どのようにパートナー各社やユーザーに対して指針を示していくのかという点にある。