20年ほど前から、若者に元気がないと言われてきました。この場合の若者とは、主として男性でした。そして、ここ数年では草食男子という言葉にあらわされるように、恋愛や性に対して消極的な男性が度々メディアでも取り上げられるようになってきました。つまり、ここ数十年で男性の弱体化が一般的には進んでいると考えられています。
その反面、女性は大学や大学院に進学する人が増え、結婚しても仕事を続け、キャリア志向の強い人も少なくありません。そして、恋愛や性に積極的にもなり、肉食女子なんていう言葉で呼ばれるようにもなってきました。
草食男子に肉食女子。食物連鎖として置き換えてみれば、肉食である女子の方が草食である男子よりも強くなっているイメージがありますよね。実際、恋愛だけではなく就職活動においても選考が進むにつれて、対話力、語学力、第一印象、将来への展望、快活さなどで、女子学生が男子学生をしのぐという声も聞かれます。実際就職してみても、「女性のほうが立ち上がりが早い」「キャリアプランをしっかり考えているのは男性より女性のほうが多い」なんて声も耳にします。
このように、男性の弱体化が進むことによって、男女の恋愛はどう変わっていくのでしょうか。
晩婚化も男性弱体化が要因?
最近の恋愛事情として、結婚が晩婚化しているといわれています。理由の一つに、女性たちのキャリア志向が強くなり、「結婚して主婦業や子育てに追われ、仕事ができなくなるのは嫌だから」といわれます。また、男性からすれば、結婚して家計を維持していけるだろうかという経済的不安が、結婚に二の足を踏むことにつながっているといわれます。ここでも、女性が強く、男性が弱くなったといえるかもしれません。ですが、結婚したくないわけではなく、結婚に踏み切れるだけの経済力と仕事への復帰の確実性が担保されれば、事情は変わってくるわけです。
つまり、社会状況の変化が男女の恋愛を変えているです。その境は、失われた10年にあるでしょう。高度経済成長期は年功序列で、20代よりも30代と確実に給料は上がりました。給料は上がり続けるわけですから、結婚しても家計に対する不安は今よりもなかったと思われます。そして当時は、女性たちの社会進出が後退していました。良くも悪くも男性が、女性を守らなくてはという気概があったわけです。
バブル期でも、経済的不安はなく、男性たちは女性を喜ばそうと、あれやこれやと考える余裕があったわけです。そのための知識を蓄え、その知識を経験に変える経済的余裕もありました。それが失われた10年以降はどうでしょう。就職氷河期、終身雇用や年功序列型賃金体系が崩れ、将来の先行きが見えなくなってきます。ですがその一方で、従来の「男性は女性を守らなくてはいけない」「一家の大黒柱として家計を担わなければならない」というプレッシャーが、男性にのしかかってきます。それが結果的に、男性の結婚への消極的な姿勢を生み出しているわけです。
遊びにでかけるにしても、お金がかかりますよね。恋愛力は経験によって培われます。今の時代とバブル期を比べれば、その恋愛の経験値が低くなっていくのは当然なわけです。恋愛を人間関係の一つとして捉えれば、人間関係の希薄化も、その経験値を低めてしまっている要因といえるでしょう。結果、どう恋愛に、どう女性に対応していいかわからず、消極的になってしまうのかもしれません。
つまり、過去の時代と比較して、今の男性が弱体化していると考えるのは意味がないといわざるを得ません。男性も女性も、その時代を反映した恋愛をしているに過ぎないのですから。
過去がよく、今が悪いわけではありません。おそらくこれからは、男性が女性を守らなくてはと気負いしている男性たちを、「そんなこと気にしなくていいわ」と引っぱる女性が増えていくのではないでしょうか。つまり、好きな人と一緒にいたい、そのために男女の性役割をこえて恋愛が関係づけられていくかもしれません。
いわゆる弱体化している男性が好きならば、女性が引っぱっていけばいいわけです。そうでないのなら、強い男性に引っぱってもらえばいいのです。近年、専業主婦を志向する若い女性が増加しているといいますが、それは女性も働かなくてはいけないというモダンフェミニズムからの脱却ですし、主夫やイクメンを志向する男性の増加も、古い男性性からの脱却なのです。これらは、恋愛の形態が流動的になっていることの証ではないでしょうか。
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著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。