金融市場で、ギリシャの「ユーロ離脱」論が再び盛り上がってきた。昨年末に与党が推す大統領候補が議会で承認されなかったため、規定に従って議会は解散、1月25日に総選挙が実施されることになった。現時点で、ユーロ体制下での財政緊縮に強く反対している急進左派連合(SYRIZA)の優勢が伝えられている。
SYRIZAが単独過半数を取ることは難しそうだが、連立工作に成功して政権を獲得する可能性は十分にありそうだ。そうなれば、これまでの連立与党である新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動(PASOK)が進めてきた、財政緊縮路線とは真逆の方向に舵が切られそうだ。
大きな問題は、EU(欧州連合)、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)のトロイカによる最後のギリシャ支援パッケージが凍結されていることだ。新政権がトロイカと新たに合意することなく期限の2月末を過ぎれば、ギリシャのデフォルト(債務不履行)のリスクが高まるだろう。
どの党も単独過半数に達せず、また連立工作に失敗した場合は、しかるのちに再選挙となる。これは、欧州債務危機のただ中の2012年5-6月に経験したことだ。当時は、再選挙によって連立与党が辛うじて政権を維持したが、それが決まるまでは金融市場でリスク回避的な動きが強まった。今回も、政治的な空白が長期化するようならば、やはりデフォルトの懸念やユーロ離脱論が高まるのではないか。
SYRIZAはユーロ離脱を標榜しているわけではない。あくまでユーロ圏にとどまるとの前提で、ドイツ主導の財政緊縮に反対しているのだ。もちろん、SYRIZAが政権を獲得したとして、トロイカとの交渉で強硬姿勢を崩さなければ、市場では「ユーロ離脱」論が横行するかもしれない。ただ、これまでの「ユーロ圏の政治」に鑑みるに、着地点を見出すことは不可能ではないだろう。
サマラス首相(ND)は、SYRIZAが政権を奪取すれば、その帰結は「ユーロ離脱」だと有権者に訴えている。また、ドイツ政府が、ギリシャにユーロ離脱の可能性があり、充分に対応可能だと判断しているとの報道もあった。ただ、それらは実際にユーロ離脱を想定しているというよりも、ギリシャ有権者への牽制の意味合いが強いだろう。
ギリシャの政治不安を背景に、ギリシャの10年物国債の利回りは2013年9月以来の10%超まで上昇してきた(国債価格は下落)。一方で、スペインやイタリアなど南欧諸国の国債利回りはドイツなどと同様に低下基調を辿ってきた(足もとでやや上昇)。少なくとも現時点では、ギリシャ問題は南欧諸国にはほとんど波及していない。2012年との最大の違いは、同年7月のドラギECB総裁の「ユーロを守るために何でもやる」発言以降、救済基金やメカニズムの創設などのセーフティネットが整備されたことだ。
さはさりながら、地政学リスクに神経質な金融市場はギリシャ政治の行方を固唾を飲んで見守ることだろう。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。