音響機器の製品特長に「ハイレゾ」の文字が躍ることが少なくない昨今、作曲を手がけるクリエイターのみならず、一般ユーザーの間にも「ハイレゾ=高音質」という認識は徐々に広がりつつある。音楽制作以外の分野で活躍するクリエイターにとっても、音楽は創作の友といえるものであり、「好きな曲をよい音質で聴けること」に対して興味を持つ人も多いことだろう。
しかし、ハイレゾ対応の再生機器はまだ一般化しているとは言いがたく、「どの程度音質が良くなるのか?」という疑問を抱いた状態ではなかなか手が伸ばしづらいのが現状だ。今回は、そんな「ハイレゾ」音源を早期より自社サイト「e-onkyo music」で配信しているオンキヨーエンターテイメントテクノロジーの高橋弘美さんに、ちまたを賑わすキーワード「ハイレゾ」についてあらためて解説していただいた。
――最初に、「ハイレゾ」の概要をお話いただけますか?
ハイレゾとは、CDを圧倒的に上回る情報量を持ち、CDと比較して格段に細やかで臨場感あふれる音の表現ができる音楽データの事を言います(PCM24bit、あるいはDSD1bitなど)。
具体的には、CDはビット数にして16bit、ハイレゾは24bitですから、「分解能」にして256倍に相当します。この違いは、例えばオーケストラで言えば最弱音から最大音まで、余すところなく表現できることになりますので、CDでは収録しきれず聴こえなかった細部の表現まで、ハイレゾでは聴こえてくることになります。
これまで、音源の制作は24bitで行われていても、CDというメディアに収めるために16bitにダウンコンバートされていたのですが、ネット配信する事でスタジオマスターの24bitのままお届けすることが可能です。制作現場と同等のクオリティで配信し、アーティストやエンジニアが意図した通りの音をリスナーに届けることが出来るようになりました。
――現状普及している携帯音楽プレーヤーなどで聴く音楽と比べて、どの程度音質がクリアになるのでしょうか。
テレビのフルHD映像で、「俳優の顔のシワが良く見える」、「風景が鮮やかになった」、「映像の奥行きが増した」と言われたりしますが、それの音楽版がハイレゾといえます。音の粒立ちや空気感など、今まで感じることが出来なかった部分までお楽しみいただく事が可能です。
ユーザーの皆様からは「アーティストが目の前で演奏しているよう」ですとか「歌手の息遣いまでくっきり聞き取れる」といったお声を良く頂戴します。これまで慣れ親しんだ楽曲も、ハイレゾで聴き直すことで全く新たな魅力に気付くといったことも少なくありません。
――御社の配信サイト「e-onkyo music」のサイトを拝見していると、クラシックやジャズの名盤から90年代のJ-POP、アニメの主題歌やアニメソングのシンガーまで、さまざまなジャンルの音楽が拡充されてきています。特に売れ行きがいいのはどのジャンルですか?
2005年のサービス開始直後から2010年頃までは、クラシックやジャズが配信カタログの多くを占めていたため、売上もそのジャンルのものが多かったのですが、昨年秋以降、アニメソングやゲームソング関連レーベルの皆様が相次いでハイレゾ配信に参入されて以降、アニメ/ゲームジャンルの売上の伸びが顕著です。アニメ(声優さん)ファン、ゲームファンの方から、多くの支持をいただいています。
――ハイレゾは現在普及している一般的な音楽プレーヤーでは聴けない、ということですが、どういった環境であれば聴くことができるのでしょうか?
現在は、スマホや音楽プレーヤーでも、ハイレゾ対応の製品が多くなって参りましたので、より気軽にお楽しみ頂ける環境が整ってきたと言えます。ハイレゾの再生環境は、大まかに下記の3種類に分類されます。
オーディオシステムをお持ちの場合、費用面は、(1)→(2)→(3)の順で高くなり、設定などの手間は(2)→(1)→(3)の順で難易度が上がります。
(1)PCオーディオ
PCからUSB DACを通してアナログ音源に変換し、手持ちのオーディオシステムに接続する。USB DACは1万円程度~購入可能。
(2)ハイレゾ対応のポータブルプレイヤー(DAP)やスマートフォン
本体価格は3万円程度~。
(3)ネットワークオーディオ
NASやパソコンに音源データを保存し、ネットワークプレイヤーを介してオーディオシステムに接続する。価格はNAS+ネットワークプレーヤーで6万円程度~。
アンプやスピーカーなどのオーディオシステムをお持ちでなく、かつ移動中に音楽を聴くことが多い方には、ハイレゾ対応DAPやスマートフォンから体感していただくのが手軽でオススメです。反対に、ご自宅でじっくり楽しみたいという方は、PCオーディオやネットワークオーディオの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
――最後に、御社が比較的早期からハイレゾ音源に取り組む思いについてお話いただけますでしょうか。
オンキヨーは、"原音に忠実"ということをテーマに、再生機器を60年以上作り続けてきたメーカーです。国内で音楽配信が始まった2000年代初頭は、CD音源をマスターとし、さらにそれを圧縮した音源による音楽配信が主流でした。しかし、圧縮音源を再生して"原音に忠実"というのでは自己矛盾が生じてしまいます。
そこで、音楽配信の時代にあっても音質を損なわないサービスがないものかと見回してみたものの、そういったものが存在しなかったため、自ら非圧縮音源の配信をやってしまおうとスタートさせたのが2005年のことです。以来、ハイレゾリリースに関しては、メジャーレーベルも含めて辛抱強く交渉にあたり、ようやくコンテンツも豊富にそろうようになってきました。
今後は、利用環境もあわせて整備し、良い音をこれまでより更さらに便利にお楽しみいただけるよう、注力して参ります。
――ありがとうございました。