「出産はしたいけど、痛いのは苦手」という人にとって、「無痛分娩」はかなり気になる言葉なのではないでしょうか。古くは産婦さんにマスクで麻酔薬を吸入させて寝かせてしまうような無痛分娩がありました。しかし、赤ちゃんの脳への悪影響からこれはなくなり、現在では硬膜外という背骨の奥の方へ麻酔薬を注入する方法に変わり、無痛ではなく鎮痛、つまり痛みはなくならないが弱くする硬膜外鎮痛法が主流となっています。

ちなみに海外で硬膜外鎮痛法を受けている産婦さんの割合は、イギリス23%、アメリカ60%、ドイツ18%、イタリア3%、フランス60%と先進国でもさまざまです。

痛みが完全になくなるわけじゃない!?

意識をとるのではなく下半身のみ鎮痛するので痛みが完全になくなるわけではありませんが、子宮・膣・会陰部・肛門を支配する神経をブロックして、お産の痛みを軽減させます。同時に足の方にも麻酔が効いていくので感覚が鈍ってしびれる感じがしたり、動かしにくくなったりすることがあります。

そのため、施設によっては麻酔分娩が始まったら歩行を禁止しベッド上で過ごすことにしているところもあります。また、胃腸の働きが弱くなるので飲食を制限されることが一般的です。

背中からカテーテルで麻酔薬を入れる「硬膜外麻酔」が主流

無痛分娩の方法にはいくつか種類がありますが、もっとも安全とされ現在主流になっているのは「硬膜外麻酔」と呼ばれるもの。背中から針を刺し、硬膜外腔と呼ばれる脊髄神経を包む膜の外側に、柔らかい管(カテーテル)を入れます。そしてその管から麻酔薬を注入していきます。

自己調節硬膜外鎮痛という方法もあり、産婦さんが痛みの程度に応じて自分でボタンを押して麻酔薬を追加する方法です。投与量が過剰にならないように自動制御装置がついています。

硬膜外麻酔には、自然な陣痛が始まってから麻酔をするやり方と、「計画分娩」を行うやり方があります。自然な陣痛が始まってからの麻酔処置は、病院側に24時間対応できる体制が必要とされるため、現在は計画分娩でのみ硬膜外麻酔無痛分娩を行う病院がほとんど。計画分娩の場合は、分娩の日取りをあらかじめ決めて入院し、陣痛促進剤で分娩を進行させた上で硬膜外麻酔を行います。

無痛分娩対応の病院で、本人が希望すれば、上記のように麻酔で痛みをおさえる分娩方法を選ぶことができます。ただし母体の状態や妊娠の経過によっては、無痛分娩が難しい場合も。また具体的なやり方には、病院によっても細かい違いがあります。無痛分娩を考えている人は、健診時などにあらかじめ担当医に希望を伝え、よく説明を聞いておくようにしましょう。次回は、無痛分娩のメリットとデメリットについて解説していきます。

※画像は本文と関係ありません

善方裕美 医師

日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。

主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など