大晦日恒例の『NHK紅白歌合戦』が目前に迫ってきた。

CD不況でかつてのようなヒット曲が生まれないなか、近年では「賞味期限切れ」「オワコン」などと批判されることも多い紅白。確かに、知らない歌手や曲ばかりが次々と登場するにもかかわらず、「他に見たい番組もないし……」となんとなくで見続けてしまう人も少なくないだろう。

しかし、仮にも国営放送局が1年間の総力を挙げて制作する最強コンテンツを、ただ惰性で見てしまうのはもったいない。「好き/嫌い」や「知ってる/知らない」といったレベルではない、もっと違った楽しみ方があるはずだ。

そこで今回は視点を一段上に移して、1994年と2014年の2つの紅白歌合戦の「歌詞」に注目しながら、20年前と現在の流行や世相の変化についてあれこれ考えてみようと思う。「歌は世につれ世は歌につれ」とことわざにもある通り、「上から目線」に立ってみれば、TV画面の裏側に大きな時代の流れのようなものが見えてくるかもしれない。

なお、今年の紅白の曲目は12月22日現在、まだ全ては発表されていない。そのため、本記事で取り上げる今年の曲は、大手スポーツ紙などが行った予測を基にしていることを予めご了承いただきたい。

20年前の紅白は7割以上が「ラブソング」だった

「歌といえばラブソング」と言っていいほどに、恋愛を題材にした歌は昔から流行歌の主役である。実際、1994年の紅白歌合戦では出場した50組のうち37組がラブソングを歌っている。実に7割以上。当時の放送時間は3時間45分だから、単純計算で2時間半以上にもわたって延々と恋の歌が流れていたことになる。

ところが、今年の紅白を見てみると、ラブソングを歌う予定であるのは全51組中わずか21組。流行歌の代名詞だったラブソングは、今や全体の半分以下にまで激減しているのだ。

今年はラブソングのかわりに何が“キテる”のかは後述するとして、ラブソング全盛期だった94年についてもう少し詳しく見てみよう。実は、同じラブソングといっても、男性歌手と女性歌手とで内容が大きく違うのである。

例えば、当時ミリオンセラーとなった山根康広の『Get Along Together』では、 “誰より君を愛してる”、“もう二度と放さない”、“ずっと守ってゆく”といった、非常にストレートな「好きフレーズ」が頻出する。また、この年初出場だったTOKIOも、デビュー曲『LOVE YOU ONLY』で、“君が好きだよ”、“君がすべてさ”、“会った瞬間”に“胸の時計”は“動きを止めた”などと、こちらが恥ずかしくなるくらいに「好き好き」メッセージを放っている。恋愛に対して、今まさに燃えている真っ最中であるのが、20年前の男性歌手の特徴なのである。

それに対して、女性は恋が燃え尽きた後、つまり失恋を題材にした歌が多い。中山美穂『ただ泣きたくなるの』やDREAMS COME TRUE『すき』などがその代表だ。特にドリカムは、“心に穴があく”、“バスタブにうずくまった”、“抱いた膝”に“こぼれるしずく”など、詞を読んでいるだけでも辛くなるフレーズばかりだ。また、演歌勢でも田川寿美『女…ひとり旅』、伍代夏子『ひとり酒』と、2曲も「ひとり」という言葉をタイトルにした曲が歌われている。当時40%以上の視聴率を誇った超人気番組で、次々と失恋の歌が繰り広げられていたというのは、考えようによってはなかなかすごい。

また、失恋ソングではないものの、久宝留理子の『早くしてよ』も時代を感じる1曲だ。恋人が待ち合わせているシチュエーションを歌った曲で、“怒る顔が今日は見たくて”、“待ち合わせの時間わざと遅らせて”みたのに、いざ待ち合わせ場所に来てみたらあなたがいない、というすれ違いが描かれている。2014年であればここで会えない辛さを西野カナ的にポエム化するところだが、久宝留理子は“早くしてよ”、“何してるのよ”、“何様のつもり”とぶちキレるのである。なんともエネルギッシュだ。

こうして見てみると、男性が単純な「好き」という歌であるのに対して、女性の方が表現のバラエティに富んでいることが分かる。当時の女性の恋愛に対する関心の高さや恋に注ぐエネルギーの多さがうかがえる。

ジャニーズにまで及んだ「応援歌」系の勢い

では2014年に視点を移してみよう。ラブソングが減ったかわりに近年急増しているのが「応援歌系」だ。

この系統の隆盛は『世界に一つだけの花』(2003年)以来の潮流だと考えられるが、今年はなんといってもMay.Jの『Let It Go~ありのままで~』がその筆頭に挙げられる。大ヒットを記録した映画『アナと雪の女王』の主題歌として、“ありのままの~”というフレーズは毎日のようにTVやネットで流された。“ありのままの自分”を肯定しようとするこの歌は、“特別なオンリー・ワン”を目指した『世界に一つだけの花』の、いわば直系にあたる応援歌といえるだろう。

「応援歌系」急増の勢いはジャニーズにまで及んでいる。ジャニーズ勢最若手のsexy zoneは『男 never give up』において“夢諦めんなよ”、“おまえらしくススメ”、“すべてにチャレンジ”と、これでもかというくらいに元気づけようとしてくれる。タイトルからも分かる通り、この曲のターゲットはもはや女の子ですらない。かつてはティーン女子に甘いラブソングを提供していたジャニーズのイメージも今は昔である。

一方、ラブソングの大供給勢力である演歌勢にも変化が見られる。藤あや子『海峡しぐれ』、香西かおり『一夜宿』、五木ひろし『桜貝』はいずれも演歌定番の別れの歌。しかしかつてのような、単に好きな人が去ってしまったというシチュエーションではなく、“今度この世に生まれたら”(『海峡しぐれ』)、“生まれかわっても命はひとつ”(『桜貝』)といった歌詞から、相手が既にこの世にいないことがうかがえるのだ。失恋の別れではなく、今生の別れであるところがなんとも重たい。演歌を好むのは一般的に年長世代だが、演歌の歌詞にも高齢化の波が押し寄せているのかもしれない。

着実に勢力を伸ばす「マイルドヤンキー系」

さて、ラブソングから応援歌という大きな潮流の変化の中で、新興勢力が台頭しつつある。それが「一体感系」だ。これは「応援歌系」の亜種とも考えられるが、自分や特定の誰かひとりが対象だった「応援歌系」とは異なり、「一体感系」は仲間や家族との絆、彼らと共に夢を目指す高揚感を歌っているのが特徴だ。

その極致ともいえるのが、椎名林檎の『NIPPON』である。サッカー日本代表のNHK応援ソングに選ばれた曲だが、“万歳”、“出陣”、“鬨の声”、“我らの炎”など、応援というよりも「応援するおれたち」の方がむしろ歌詞では重視されている。昨年、紅白を勇退した北島三郎の名曲『まつり』にも通じるものを感じるが、今思えばあの曲は「早すぎた『一体感系』」だったのかもしれない。

「一体感系」でいえば、今年は是非SEKAI NO OWARIに注目したい。中学生の自作の小説のような世界観から「中2」などと揶揄されがちなセカオワだが、ヒット曲『Dragon Night』では、互いの“正義”で争っていた“僕たち”が“百万年に一度”の“今宵”だけは戦いをやめて“歌”い“踊”るという、過酷な状況を克服する友情や絆をテーマにしているのである。メンバー同士が共同生活を送るなど、限られたコミュニティ内での仲の良さや絆の強さを地でいくセカオワは、椎名林檎のような強い「一体感系」に対して、「マイルドヤンキー系」というさらなる新種に分類されるべきだろう。

「マイルドヤンキー系」といえば、マイルドヤンキー界の大スターであるEXILEは外せない。今年リリースした『NEW HORIZON』では、 “いつだってあきらめない”僕らは“その先に見える世界”を目指し“始まるparty time”と、「応援歌系」と「一体感系」が見事にハイブリッドされた歌を披露し、抜群の安定感を誇っている。彼らの弟分である三代目J Soul Brothersも『R.Y.U.S.E.I.』の中で、“この瞬間を共に過ごしたい仲間”、“人生一度きり”、“DREAM”と、次世代の「マイルドヤンキー系」として期待が持てそうな世界観の片鱗を見せている。新勢力ながらその多くがまだ若手である「マイルドヤンキー系」は、今後紅白の主役に躍り出る可能性を秘めているのだ。

まとめ

こうして見てみると、ラブソングが圧倒的な優位を保っていた94年と違って、紅白の勢力図はさながら群雄割拠の戦国時代のような様相を見せているのが分かる。そして、恋愛に代わって「自分らしく(=応援歌系)」、「みんな一緒に(=一体感系・マイルドヤンキー系)」といった感性が受け入れられ始めているのは、時代の空気の変化と無縁ではないはずだ。なお、様々な楽曲の歌詞についてはJOYSOUNDのWebサイトで無料で見ることができるので、気になった人は見てみてほしい。

大晦日、「知らない歌ばかりだ」とTV画面に向かってディスるのではなく、歌詞に注目することで自分なりの見どころを探してみてはいかがだろうか。