全国のリゾート地や温泉地では公共の宿が人気だが、都市部にも公共のホテルはあり、低廉な料金体系なのに施設は豪華だったりと、レジャーはもちろんビジネスユースにも隠れた人気となっている。しかし、朝食は別途有料で提供されているケースが多く、無料朝食を採用する公共のホテルはほとんどない。ところが、岩手県盛岡市のベッドタウンである紫波(しわ)には、究極の無料朝食を提供する公共系のビジネスホテルがあるのだ。
多目的施設郡の中にあるホテル
公共"系"としたのは、ホテル自体は別組織の運営だが、ホテルのある施設は第三セクターが運営しているからだ。その施設は、JR紫波中央駅前に広がる「オガールベース」。マルシェや図書館などが入った「オガールプラザ」や町の新庁舎、フットボールセンターなどを設け、ビジネスや観光、スポーツ合宿など様々な用途で使える空間が街の中に溶け込むようにして存在している。
そして、冒頭で触れたホテル「宿泊特化型ホテルオガールイン」は、「オガールベース」の内にある。公共系ホテルにしては、モノトーンにウッディな組み合わせが斬新。デザイナーズホテルという表現がマッチするイメージだ。客室は、バス(シャワーブース)トイレがセパレートタイプで使い勝手が良く、何よりその天井高が開放感をもたらしてくれている。
目でも楽しめる色彩豊かなメニューたち
筆者は全国各地のビジネスホテルで無料朝食を食べてきたが、このホテルで宿泊者全員に提供されている無料朝食には驚いた。ロビースペースの明るい朝食会場には、色とりどりに盛りつけられた料理が並び、器にも気を配ることで食材の「色」が際立っている。何より、豊富な野菜がうれしい。調理もシンプルで素材のクオリティーが目でも楽しめる。
食材にこだわっているようで、メニューには「お米と野菜は紫波町産を使用しています」という添え書きがされている。ソーセージや焼き鮭といった朝食定番メニューはもちろん、カレーまで提供されているのだが、ここでは野菜狙いでがっつり食べていただきたい。
「地産地消」がブームとなって久しいこのごろ。通常、「地」のエリアは県単位などの広いエリアを指すことが多いが、町でとれた米や野菜を使用する場合は、「町産町消」とでも言うべきだろうか。見て食べて健康を実感できたビジネスホテルで無料朝食は、ここが初めての経験だ。
※記事中の情報は2014年12月取材時のもの
筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。
「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」