アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの名作小説『星の王子さま』初のアニメーション映画化作品『リトルプリンス 星の王子さまと私』(2015年冬公開)。メガホンをとったマーク・オズボーン監督は「あれほどまでに詩的な名作を、損なうことなく映画化するなんて不可能だと思った」と一度断るが、「原作の世界観を忠実に描き、そこを核に、原作に触れた経験を描くのであればできるのでは」とひらめいた。
そして生まれたのが、9歳の女の子と年老いた飛行士を主人公に、『星の王子さま』の"その後"を、『星の王子さま』のエピソードと並行して描く物語。この飛行士は、昔、星の王子さまと出会ったあの飛行士で、女の子は飛行士から星の王子さまとの思い出を聞くことで、『星の王子さま』の世界へと入り込んでいく。
本作では、"現実世界"を最先端のCGアニメーション、"星の王子さまの世界"を温かみのあるストップモーションアニメーションで描くという2つの技法を使用。また、マーク・オズボーン監督は「宮崎駿監督の大ファンで大きな影響を受けている」と言い、「特に『となりのトトロ』。ファンタジーと現実が混ざっている世界を、この作品でも指針にしたかった」と明かす。
ハリウッド最高峰のスタッフが集結した同プロジェクトでは、『塔の上のラプンツェル』でラプンツェルの髪を描き切った日本人クリエイター四角英孝氏も、キャラクター監修として参加。先日、マーク・オズボーン監督と四角英孝氏が来日し、本作のプレゼンテーションを行われ、その直後に、2人に本作への思いを語ってもらった。
――お2人が原作に触れた時のエピソードを教えてください。
マーク・オズボーン監督:ニューヨークの大学で今の妻と一緒で、3年間一緒に暮らしていたことがあったんですが、僕がアニメの勉強のためにロサンゼルスに移り、別れたんです。そして再会した時にお互い好きだということがわかり、その時に彼女がこの本をくれたんです。"別れ""再会"というのが、自分たちと重なる部分があり、興味を持ちました。そして、その彼女と結婚し、今2人の子供がいます。
四角英孝:僕の場合は、何歳の時か覚えていないんですが、たぶん母親から本をもらいました。最初は意味がわからなかったですね。覚えているのは、王子さまが小さい星に1人でポツンとたたずんでいる寂しいイメージをずっと持っていました。今回、この話をもらった時にあらためて読んだら、また違う印象で、年齢ごとに読み続けていくと違う方面、いろんな角度から教えてもらえる作品だと思いました。
――プレゼンテーション時に、主人公の女の子についてお2人とも「かわいい」「納得できるビジュアルになった」とおっしゃっていましたが、そう思えたポイントはどこにありますか?
監督:いっぱい絵を描いてキャラクターを作り込み、アニメーターがそれを作っていくんです。動きとか生命観を与えるとか、いろいろな難関を経て、最後に声優の声を付ける。声を付けたことで、また新しいものが生まれて、まったく別のものになるんです。そして、声を付けてこれでいいと感じる瞬間があるわけです。すべてを取り込んでから、あっこれだってなるんです。
四角:今回のアニメーションチームは、女性のアニメーターの比率が多かったので、男性のアニメーターが付けられないような繊細さがあったような気がしますね。
監督:そうですね。『カンフー・パンダ』の時は、35人のアニメーターのうち女性は2人でしたが、今回は3分の1は女性です。
――ストップモーションを使った作品で影響を受けたものはありますか?
四角:僕は『ウォレスとグルミット』。その時にもうCGをやっていたんですが、ストップモーションとどうやったら共存できるのかというのは、すごくテーマにしていて、今回『リトルプリンス』でストップモーションとCGを一緒にやるというのは、いいチャンスだと思いました。
監督:『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の時に、新天地が開けた感じでした。今回ストップモーションでトップを務めている人は、『ナイトメアー~』でやっていた人なんです。でも最初はみんな、ストップモーションとCGの融合なんてできるわけないだろうって感じで、疑問に思っていたんです。でも、試みが成功したわけです。
――監督がこの作品の中で一番美しいと感じているシーンはどこですか?
監督:飛行士の家、庭はとても美しいです。いろんなものがあって。隣の無機質な女の子の家とはまったく違う世界で、女の子にとって、あの家に行くことがどんなに衝撃だったか。
――お2人とも宮崎駿作品に影響を受けているとのことですが、宮崎アニメとの出会いを教えてください。
四角:僕は『風の谷のナウシカ』が最初です。感動したというか、頭をガーンと殴られた感じでした。そこからアニメ作品を見るようになったんです。もともと、『ルパン三世 カリオストロの城』が大好きなんですけど、最初は宮崎さんが監督したって知らなかったんです。あと、『未来少年コナン』も大ファンなんですが、それも実は宮崎さんがやられてたという。知らず知らずのうちに宮崎さんの影響を受けていましたね。
監督:『となりのトトロ』が最初でした。私たちアメリカのものとはまったく違って、衝撃を受けました。なんてすばらしいものかと。それで、彼の作品をいろいろ見ようと思ったんです。今はわれわれの子供も夢中になっています。本作でも、『となりのトトロ』のファンタジーと現実が混ざっている世界は、指針にしていました。だから、日本で『リトルプリンス』を見てもらえるのを楽しみにしているんです。
――『リトルプリンス』の登場人物の中で、ご自身はどなたに近いと思いますか?
監督:僕はママ。スケジュールを立てて何時に何をするっていう感じは、まさに監督と同じ。そして、あのお母さんは教育ママだけど、あの子を愛している。私もそういう厳しい監督かもしれないけど、仕事とチームを愛している。だからすべて愛が原動力だと思っていただけたら。
四角:僕はフォックス(キツネ)になりたいと思うんですけど、たぶんランプライターです。職人気質で、同じ作業をずっと続けて、それに誇りを持つ。僕の仕事もまさにそうなんです。コンピューターの前で8時間、そしてこのプロジェクトの2年半の間、毎日同じことを繰り返していて、その仕事の中で何らかの誇りや喜びを見つけられる。
――キツネへの憧れというのは?
四角:キツネは、人との絆を大切にするじゃないですか。僕もキツネのように絆を大切にしたいと思うんですけど、それはなかなかうまくいかないですね(笑)。
――今回、日本人の方が関わっているということは、日本人としてとても誇りに感じますが、監督は四角さんと一緒に仕事をして、どうでしたか?
監督:彼を得られたことはとてもラッキーでした。このプロジェクトは、とても複雑なことを解決しないといけなかった企画ですが、一番重要なことは、質のいい作品を作る、そして、人々が本当にこういう話があると信じられるような世界を作るのが目的なんです。その中で、彼は今まで学んだことを全部放り出してくれ、質の向上のために尽くしてくれ、感謝しています。いわゆるハリウッドとは違うものにしたというのは、彼の貢献が大きいと思います。
――ハリウッド的ではないというのはどういうことでしょうか?
監督:本と同じような終わり方なんです。本は、愛する人を失う、人との別れにどういう風に人間が対応するかということがテーマになっていて、それは映画でもちゃんと受け継いでいて、映画の結末なんです。映画は、少女が本を読むという話で、少女がいかに本からいろんなものを学んだかということがわかる映画になっています。だから、本の精神が一番最後に残る要素としてあるんです。
――最後に、楽しみにしている日本の人にメッセージをお願いします!
監督:みなさんにとって宝物のようなこの本を、われわれは本当に忠実に心を込めて映画化しました。そのことを信用してほしいです。そして、絶対に楽しんでいただけると思います。
四角:200人ほどのスタッフが全員パッションを持って全力を注ぎ込んで作っています。いいものがお届けできると思います。
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