ユーロ圏景気の低迷が続き、デフレ懸念が払拭できないなか、ECB(欧州中央銀行)がいよいよ国債購入に踏み切るとの見方が強まってきた。

ECBも、これまで手をこまねいていたわけではない。今年6月にマイナスの中銀預金金利を含む利下げに踏み切り、9月にTLTRO(目的を限定した長期資金供給)の第1弾を実施。10月にカバード・ボンド(住宅ローン等の担保をつけた債券)、11月にABS(資産担保証券)の購入をそれぞれ開始した。

それでも、これまでの施策が目に見える効果をもたらしているとは言い難い。ECBのドラギ総裁は金融緩和の効果を高めるために、ECBのバランスシート(総資産)を2012年ごろと同じ3兆ユーロに増やす意向を表明している。

しかし、現在のバランスシートは2兆ユーロに過ぎず、ようやく減少傾向に歯止めがかかった程度だ。2011-2012年に実行された期間3年のLTRO(長期資金供給)が順次返済されていることに加えて、上述した施策が小規模にとどまっているからだ。例えば、TLTROの第1弾は826億ユーロ、12月上旬までのカバード・ボンドの購入額は合計約200億ユーロ、ABSの購入額は6億ドルだ。バランスシートを1兆ユーロ積み増すには、かなり力不足だ。加えて、今後2か月でLTROがさらに2,700億ユーロ返却されるらしい。

そうしたなかで、ドラギ総裁によれば、12月4日のECB理事会は「金を除くあらゆる資産の購入を検討した」ようだが、やはり本命は国債購入だろう。日銀や米FRB、BOE(英中銀)と同タイプのQE(量的緩和)である。ただし、ECB内部では、慎重論や反対論も根強くあるようだ。

まず、ECBの中核メンバーであるドイツ連銀が反対している。ドイツは第一次大戦後に、中央銀行による国債引き受け、いわゆるマネタイゼーションによってハイパーインフレを経験したため、強い拒絶反応があるのだ。

そして、どの国の国債を、どれだけ買うかを、どう決めるかという問題もある。ユーロ圏参加国の経済規模に比例して国債を購入するなら、強硬に反対しているドイツの国債を最も多く買うという皮肉な結果にもなりかねない。

それでも、ドラギ総裁は国債購入にまい進しているようにみえる。12月4日の会見で、ドラギ総裁は「(QEの決定は)全員一致で決定する必要はない」と言い切った。ECBメンバーの過半数が国債購入に賛成するとの感触を得ているのではないだろうか。ECBは毎月だった理事会の開催を来年からFOMCと同様に年8回へと変更する。それに従えば、2015年1月22日の理事会で国債購入を正式決定、3月5日の理事会で詳細を発表、というのが最も早いスケジュールとみられる。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。