また最後に、同社の来年以降のレース関与について質問があった。これについてはTolany氏が「2014年度のSuperGTの参加は、我々の技術力を示すという意味で非常に素晴らしい成果が上がったが、2015年のマーケティング計画に関してはまだ予算編成の段階にあり、一切の決定がなされていない。SuperGTに関してもこれに含まれる」と述べた。要するに事実上の打ち切りであるが、これについてもう少し説明をしておきたいと思う。

元々Freescaleは米国では何でかレースにそれなりの関与をしていた。もっともNASCAR向けのMCUの話は別で、これは純然たるビジネスである。そうではないのが、例えばこちらに出てきたAmerican Le Mans Seriesへの参加で、その前の年は確かFerrariのワンメイクに参加していた気がするのだが、これは何かというと、同社の前CSMOだったHenri Richard氏の趣味である。で、そのHenri Richard氏と密接に関係していたのが前社長だったDavid Uze氏である。元々フリースケールセミコンダクタジャパンの社長にUze氏を強力にプッシュしたのがRichard氏だったからだ。実はこのコンビ、その前のAMDの時にも形成されており、ある意味順当(?)な人事だった。さて、Richard氏は自身がハンドルを握るほどのレース好きであるが、Uze氏も(自分がハンドルを握りはしないものの)やはりレース好きであり、プロモーション活動としてレースにのめりこむのも、何しろ自分のボスがもっとのめりこんでる訳で、まぁ取締役会の承認は通りやすかったのだろうと考える。

ところが、2012年6月に本国のCEOがRich Beyer氏から現CEOのGregg Lowe氏になって風向きが少し変わってきた。Lowe氏とRichard氏は必ずしもうまく行っていたとは言えなかったようで、Richard氏は2013年4月に同社を退職、即日SanDiskに転職する。この結果として、Uze氏はレース活動を続ける有力な後ろ盾を失うことになってしまった。それでも2013年にはCEOに直訴してレース活動を続ける事を承認してもらったらしいが、何しろSuperGTのスポンサーフィーは(GT300クラスであっても)半端ではない。

2013年のAnnual Report(http://ir.freescale.com/~/media/Files/F/Freescale-IR/documents/2013-annual-report.PDF)を元に読み解いてみると、2013年における同社の総売り上げは41億8600万ドル、粗利が17億8600万ドルといったところ。日本は先の「1割弱」という数字を前提にすれば売り上げが4億ドル、粗利で1.7億ドル程度であろうか。さて、ここからSuperGT費用を含むマーケティング費用をひねり出すわけだが、これはSelling, general and administrative(販売費及び一般管理費)に含まれ、2013年は4億6400万ドルとなっている。日本も順当に1割として4600万ドル程度だろうか。ここからレース系のイベントに支払える金額を考えると、精々が1割の5億円程度で、これを超えると他の販促活動に深刻な影響が出そうだ。ではこの金額でSuperGTのチームを1年間活動させ、ついでに富士スピードウェイ(FSW)を借り切って3日間のイベントを実施するなんてことが可能か? というと絶対無理であり、多分実際には販促費の大半をレース関連で使い切っていた可能性もある。それでも上司に恵まれている間は良かったかもしれないが、後ろ盾がなくなった状態でこれを継続するのは無理というか無茶だったように思う。

Uze氏の辞任の仕方もさることながら、Tolany氏が率先して、しかも事前にちゃんと練習してきたかのようにすらすらと返事が出てきたのは、おそらく本国でこうした出費が問題視されていた事の裏づけであろうし、元々がUze氏の強い思い入れで始まったプログラムだけに、Miller氏の率いる新フリースケールセミコンダクタジャパンが引き続きSuperGTにスポンサードを継続すると思われる理由は何1つ存在しない。まぁある意味順当な判断であろう、とは思う。