隆起した赤いぶつぶつが体のあちこちにでき、かゆくてどうしようもなくなる……その正体はじんましんである可能性が高い。じんましんの出現は何かのアレルギーが原因かと思いきや、実はストレスや疲労もその原因となりうるのをご存じだろうか。

じんましんが出るメカニズムについて、桐和会グループの精神科医・波多野良二先生に伺った。

  • じんましんは働きすぎのサインかもしれない

じんましんの原因

まずは、じんましんの原因から探っていこう。

皮膚の下に存在する「肥満細胞」から何らかの刺激で「ヒスタミン」という物質が出ると、毛細血管から血液成分の一部がもれ出て地図状に盛り上がり、かゆみを引きおこす。これは食品や薬品(抗生物質、解熱鎮痛剤など)によるアレルギー、摩擦、急な温度変化などの物理的刺激が原因となることが多い。

「食品では、人間に近い豚肉や牛肉などを食べてもじんましんはあまり起きません。鶏や魚類、甲殻類と、だんだん豚・牛肉から離れるにしたがってじんましんは起きやすくなります。人体が異物と認識してアレルギー反応が起きやすいからでしょう」

ストレスや疲労とじんましんの関係性

ただ、実際に原因を特定するのは非常に難しく、血液検査などのアレルギー検査をしても多くは「わからない」と言われるという。

「スギ花粉やハウスダストによるアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎は『I型アレルギー』が原因です。じんましんの場合はI型でないことが多いため、血液検査ではあまり陽性になりません。しかし陽性にならなくても、鶏卵を食べると決まってじんましんが出る人は鶏卵が原因ですから、当分の間は鶏卵を避けた方がよいでしょう。原因と思われるものをすべて断(た)っても、じんましんの症状がおさまらない場合は、ストレスや疲労が原因である可能性もあります」

実際、日本皮膚科学会もじんましんとストレスの関係性について「ストレスはしばしば蕁麻疹を悪化させる要因となります」と指摘。

慢性的なじんましんを患っている人は「無自覚のストレス状態に陥っているケースが多い」「ストレスに対して内向的に適応してしまう傾向がある」といった調査が報告されていることも明らかにしている。

慢性的な疲労やストレスがじんましんの原因となったケース

実際にあった症例を紹介する。

事例

大学の研究室に勤務するDさん(30代・男性)は、朝7時頃に出勤し、深夜1時頃に帰宅するという長時間勤務が続いていた。
ある日、仕事が終わって駐車場へと向かう途中で、全身にかゆみを感じた。その後も同じタイミングにしばしばかゆくなるので、『毎日飲んでいる乳酸菌飲料が原因かもしれない』と、しばらく飲むのを控えた。
だが、その後もかゆみは続いたため皮膚科を受診した。アレルギーの血液検査をしてみたものの、原因は分からなかった。
皮膚科医からは『精神的なストレスや疲労による症状ではないか』と指摘された。そこで、抗ヒスタミン薬の服用と並行して、できるだけ休息をとるようにしたところ、徐々に症状が消えていった。

「このDさんのケースは、アレルギーや機械的(物理的)刺激でなく、長時間勤務による慢性的な疲労と緊張が原因ですね。じんましんは緊張から解放され、ほっとリラックスした瞬間に出る場合があります。仕事の真っ最中でなく、仕事後に自律神経のバランスが変わって症状が出たのでしょう。また、入浴後や布団に入ると、リラックスするだけでなく、皮膚が温まって血管が拡張するためじんましんが出やすくなります」

リラックス時にじんましんが出現する理由

私たちの体は心臓や血管、筋肉などの働きを自分の意志とは関係なくコントロールする自律神経の影響を受けている。自律神経は、緊張時に働く「交感神経」とリラックス時に働く「副交感神経」に分かれ、シーソーのように交互に働いている。

リラックスモードになって副交感神経が優位になると皮膚の血流が増え、ヒスタミンも増えるためじんましんが出やすいという。

じんましんの対処法

じんましんによる強烈なかゆみの対処法としては、かゆみが伴う患部を冷やすこと。皮膚の温度が下がるとかゆみを抑えられるため、冷たいタオルを当てたり冷たいシャワーを浴びせたりするとよい。

ただし、冷たい刺激によってかゆみが出現する「寒冷刺激」のじんましんの場合は逆効果となるため要注意だ。

じんましんの治療薬

じんましんの症状を抑えるためには、抗ヒスタミン薬を飲む薬物治療が一般的だ。

「慢性的なじんましんの場合は、抗アレルギー薬を続けてのんでいただいてヒスタミンが出にくくなるようにします。いつ出るか分からない場合や抗アレルギー薬だけでは症状を抑えきれない場合は、即効性のある抗ヒスタミン剤による治療を行います。広範囲に症状が出ることが多いこともあって、ぬり薬はあまり効果はありません」

じんましんの薬は眠くなりやすいものが多いので、医師と相談して適切な薬を処方してもらおう。


ストレスにより体調を悪くする人、うつ状態になる人がいる。どちらが先かは人によって異なるが、無理をしすぎると心と体のどちらも痛めてしまう。

じんましんは強いストレスがかかっているというサインの一つで、「これ以上は無理をしないように」と助けをもとめている合図かもしれない。しっかりとした休息とストレス発散も心がけたいものである。

記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ))

1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。