さまざまな理由で人は過去の記憶が抜け落ち、ちょっとしたことが思い出せなくなる。「喉まで出かかっているのに…」「アレはなんて言うんだっけ?」と、言葉に詰まる場面に遭遇した経験を誰でもお持ちだろう。この「あと一歩」を解決してくれるのが、「ATOKナントカ変換サービス」である。
ATOKナントカ変換サービスは現在、ジャストシステムの「ATOK Passport」ユーザー向けに提供するクラウドサービスの1つとして、2015年1月13日までの試用版を提供中だ。そこでさっそく試してみた。
クラウドサービス
ATOKナントカ変換サービスを利用するには、入力時に「なんとか」を先頭に付ければよい。例えば「○○屋根」という単語を呼び出すには「なんとかやね」と入力すると自動的に推測候補が現れる。この時点で並ぶのは代表的な変換候補だが、さらに「Tab」キーを押せば省略していた候補も表示されるといった具合だ。
このトリガーは「なんとか」に限らず、初期状態では「まるまる」や「?」も使用可能。ダイアログから最大5つまで追加できるため、既存のトリガーを削除して異なるトリガーを追加することもできる。ただし、既存のトリガーと重複するものは登録できないため、「??」を追加するには既存の「?」を削除すればよい。
「なんとか」や「まるまる」は副詞や名詞として使われることが多いため、文章に出てくる機会が少ないトリガーに変更しておくと使いやすそうだ。
実際に使ってみて便利に感じたのが、例えば名字が曖昧な作家名や、施設名を簡単に引ける点である。その一方で、各府省名を確認しようと「なんとかしょう」と入力してみると、その候補は400単語にもおよぶ。分母が大きいと使いにくい場面もある。
また、トリガーは文字列中やサフィックス(接尾辞)としては動作せず、あくまでもプレフィックス(接頭辞)として指定しなければならない。そのため名詞の後半部分が思い出せない場合、ATOKナントカ変換サービスは使えない。あくまでも筆者の推測だが、この辺りはクラウド辞書構造の問題のため、今後対応するのではないだろうか。
ATOKナントカ変換サービスは便利な機能だが、欠点もある。それは使用時にインターネット接続環境が必要な点だ。推測するに、トリガーに続けて文字を入力する際、クラウドサーバーにアクセスして変換候補をリストアップしてくるため、インターネットに接続していない状態では使用できない。最近はネットワークインフラが充実しているので大きな問題ではないかもしれないが、場面を選ぶ機能であることは確かだ。
さて、家庭やオフィスのデスクトップPCなど、インターネット常時接続に問題がない環境における、ATOKナントカ変換サービスの価値を考えてみよう。冒頭で述べたように、単語が思い出せない場面に出くわすことは少なくない。その観点から見れば、ATOKナントカ変換サービスは、言葉を紡ぎ出すためのツールとして順当な機能強化と言える。
既にATOK Passportユーザーは利用していると思われるが、現行バージョンである「ATOK 2014 for Windows」ユーザーや、2015年2月に発売する「一太郎2015」や「ATOK 2015 for Windows」といったパッケージを購入した場合、使用できるのは利用開始日から1年まで。その後も使い続けるには「ATOK Passport(税別286円/月、プレミアム版は税別476円/月)」に申し込まなければならない。
さらに、ATOK 2014 for WindowsにはATOK Passportの1年間利用権が付属していたが、「ATOK 2015 for Windows プレミアム」には付属せず、「ATOKナントカ変換サービス」単独の1年間利用権が付属する形となる。現在、ATOK 2014を利用しているユーザーは、任意のタイミングでATOK Passportへ移行したほうが、最新のATOKを使い続けることができるため、お得なライセンス形態となる。ATOK Passportの概要は、ジャストシステムのWebサイトを参照いただきたい。
このようにライセンス形態が複雑化し、ATOKをパッケージ単体で購入するメリットが薄れてきているのは、古い時代からのユーザーとして寂しくもある。とはいえ、ATOKナントカ変換サービスの試用版を使ってみて継続したいと感じたなら、ATOK 2015のリリース(2015年2月6日)を待つよりも、ATOK Passportへ移行したほうが色々な意味で快適かもしれない。
阿久津良和(Cactus)