米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOは、登壇するとすぐに「感謝の意を表したい」として、前社長であり、現相談役の宇陀栄次氏のもとに歩み寄り、「10年前に、日本法人の最初のCEOを誰にするかということを考えて、宇陀さんと面接した。当時は日本にデータセンターを持つということは考えもしなかった。政府が大きな顧客になるとも考えていなかった。日本の社会にも貢献した。宇陀さんには本当に感謝している。すばらしい会社を作り、顧客とすばらしい関係を作った」と語った。
宇陀氏は、「長年お世話になりました。今年末でセールスフォース・ドットコムを退任する。この会社はまだまだ伸びる。最初は33人の会社だったが、これが600人の会社になった。売上高も50倍になっている。だが、自分がやってきた10年間と、これからの10年間ではまったく違う会社になるだろう。400メートルリレーも第1走者が走り続けると負けてしまう。次の時代に相応しい人にやってもらいたいと考え、長年をかけて小出氏と川原氏を誘った。クラウドは後ろから読むとドウラク。これまではクラウドに取り組んできたが、これからは道楽に勤しみたい」と語り、会場を沸かせた。
続けて、ベニオフ氏は、「日本が米国以外では最も好きな国である。今回も京都に行き、日本庭園で瞑想をしてきた」と今回の来日の様子について語ったあと、「いま我々が置かれている環境は変化が大きい。そして変化は避けられない。みなさんの変化に対応できるようにお手伝いしたい。これほどデータが存在した時代はない。10年先には、いまがデータ革命の元年といわれるようになるだろう。過去2年間で生成されたデータが世の中の全データの90%を占めている。この時代は始まったばかりである。そうしたなかで、いかに速く対応できるのか、判断できるのか、動くことができるのかということを無視していては成功がない。10年前に、日本で初めてクラウドコンピューティングの話をしたときには、聞いている人は5人ほどしかいなかった。しかし、いまはクラウドが最も速く成長している。そしてソーシャルによって、コンシューマと企業が密接に関係するようになった。また、モバイルによってこれまでにはなかったコンピューティングの姿が見られるようになった」と述べた。
そして、クラウド、モバイル、ソーシャル、データという4つの革命が起こっていることを示しながら、「この4つの革命によって、みなさんのビジネスがどう変わっていくかのか、そして、本当に変わる用意ができているのかということを考えてほしい」とし、米国のUberの事例を紹介。
「タクシーを使いたいときに、スマホからすぐに呼び出すことができる。いまや世界最大のタクシー会社になった。過去のタクシー会社は古いものになり、次世代のタクシー会社はソフトウェアの会社だともいえる。これは100%クラウドで、100%ソーシャル、100%モバイルの会社であり、データサイエンスを活用しているからである。コカ・コーラも、クラウドとモバイルを活用しているクラウドカンパニーであり、セールスフォース・ドットコムも、これをやってきたから成長している。そして、これから登場する自律運転する自動車も、クラウド、モバイル、ソーシャル、データサイエンスによって生まれてくる」などとした。
さらに、「ソーシャル、モバイル、データサイエンスのことを最も知っている専門家は誰か。それはお客様である。お客様が最も深い知識を持っている。だからこそお客様に軸足を置かなくてはならない。だが、顧客と企業の間にギャップがあるのが問題である。これを解決するためにはモバイルを使い、新たな方法で顧客とつながっていくことである。自動車もカメラといったすべてのプロダクトも顧客や企業とつながっていく。顧客とのエンゲージメントを通じて、顧客売り上げが23%増加したという実績もある。エンゲージメントが効果的なのは実証されている。新たな技術を受け入れ、接続するためのビジョンを作り、顧客中心の会社、顧客中心の経営者でなくてはならない。最も重要なステイクホルダーは、株主でも、パートナーでもなく、顧客である」などと語った。
そして、「カスタマーカンパニーを実現するためのツールを、セールスフォース・ドットコムは、Customer Success Platformとして提供。セールス、マーケティング、コミュニティ、アナリティクス、アプリを統合した形で構成。「これらを活用することで、みなさんがクラウドの会社、ソフトウェアの会社、データサイエンスの会社にならなくてはならない」とした。
セールスフォースの最新技術を活用したユーザー事例として、GEキャピタル、損保ジャパン、コニカミノルタの3社を紹介。GEキャピタルでは、Waveを活用しながら顧客の状況を分析した上での提案を行う様子をデモストレーション。損保ジャパンでは、顧客の情報を確認しながら保険の提案を行ったり、保険加入者が怪我をした際に、モバイル端末を活用することで、迅速に現場に駆けつけることができるサービスなどに利用している様子をデモストレーションしたほか、コニカミノタルでは、医療分野において活用するモバイルアプリを、Salesforce 1 Lightningで短期間に開発した様子を紹介した。
損保ジャパン日本興亜ホールディングスの櫻田謙悟グループCEO 取締役社長は、「保険ビジネスは人口の増減に影響するものである。無くなりはしないが、日本では徐々に減少していくのは明らかだ。そのなかで存続するためには、差別化が必要である。安心でありたい、安全でありたい、健康でありたいというニーズのもとに保険という製品がある。差別化の最大の鍵は人間である。だが、最もコストがかかるのは人である。その経営資源を最も効果的なところに使うことが必要だ。人の強みは、正確、速い、瞬時にその顧客を知るということである。そこにセールスフォースを活用することで差別化していく」と述べた。
また、セールスフォース・ドットコムの川原均社長兼COOは、「セールスフォースは、他のプラットフォームに比べて、521%も生産性が高いといわれるが、Salesforce 1 Lightningを活用することで、さらにスピードが速く開発できる。そして、思ったようなものが、すぐに使えるようになる」と述べたほか、「データをうまく活用すれば勝ち組、うまく活用できなければ厳しい局面を迎えるという時代がやってきている。そうした時代に向けて最適なツールを用いる必要がある。多くの分析ツールは、デザインが20年前に作られたものである。ネットワーク、ソーシャル、モバイルに直結したものではない。そのため、限定された人たちだけが使うものとなっている。顧客の目の前で変化が起こっていることを考えれば、営業やマーケティング担当者をはじめとして、すべての人が活用できるものでなくてはならない。そこで発表したのがAnalytics Cloudである」と位置づけた。
最後にベニオフ会長兼CEOは、「企業は顧客との橋渡しを作らなくてはならない。そして、モバイルやソーシャル、クラウドといった環境もさらに変化が起こっている。我々は、企業の変革を手伝う役割を果たしていきたい。これからもみなさんと一緒に仕事をし、すばらしい未来の世界を実現したい」と締めくくった。
一方、「Salesforce World Tour Tokyo」では、マーケティング業界の最新トレンドおよびテクノロジーを紹介するマーケティングセッションや、米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長とトヨタ自動車の豊田章男社長による特別対談、プロ野球選手の上原浩治氏および川崎宗則氏による「グローバルチャレンジと社会貢献」と題したスペシャルセッションも行われた。