ダルビッシュ有と安藤美姫の交際宣言が話題を集めている。一週間のタイムラグがあるにも関わらず、TwitterやInstagramにアップされた2ショットのアングルがあまりに似ていたからだ。
そういえば、先月には中山美穂と渋谷慶一郎もInstagramに写真を載せていたし、『SEKAI NO OWARI』FukaseときゃりーぱみゅぱみゅもTwitterで交際宣言している。
今なぜこのような流れが起きているのか? ここでは芸能人に加え、アスリートやアーティストなども含めた"タレント"のネット活用方法について書いていきたい。
マスコミへの嫌悪感と共存共栄
ダルビッシュと安藤が新聞、雑誌、ウェブ媒体などを通さず自ら発表したのは、それらのマスコミ対策であるところが大きい。ダルビッシュの熱愛宣言は『女性セブン』の発売直前に行われたものであり、いわゆる「書かれるくらいなら自分で発表してやろう」という発想だ。
安藤美姫のケースも、「今までさんざん書かれてきた週刊誌報道が過熱する前に先手を打とう」という意図がうかがえる。彼女の心を察すると、「憶測で書かれたくないし、それを受けてツイートしても言い訳と思われて叩かれるだけ」というところか。この“自ら発信する”という方法は「自分のペースを乱されたくない」「それを貫かなければ勝ち抜いていけない」アスリートやアーティストに多い。
しかし、これが芸能人になると話が変わってくる。たとえば、芸人にとってプライベートは芸のうちであり、俳優にとっても作品の貴重な宣伝ツールであり、さらにスポンサー契約の絡みなどもあり、マスコミを無視して自ら発表することはできない。もしマスコミに不満を抱いていたとしても、「持ちつ持たれつ」の関係をキープするために、所属事務所が発表の時期を調整しているのだ。
ゆえに芸能人たちがTwitterやInstagramでプライベートを発信するのは、第一報ではなく、第二報以降。報道を感じのいいフレーズで認めたり、誤解を招かないように釈明したり、ファンの好感度を意識したものになる。
ファンのアタッチメントとオワコン対策
ではなぜ有名人たちはTwitterやInstagramを積極的に使いはじめているのか? 最大の理由は、「接触機会を増やしてファンのアタッチメント(愛着)を育む」こと。その象徴が「会いに行けるアイドル」AKB48グループで、劇場や握手会だけでなく、各メンバーがネットツールを多用している。「接触回数が多いほど好意が高まる」という人間心理(ザイアンスの法則)を突いたものであり、これをセールスに落とし込んでいるのだ。
アイドルに限らずタレントたちがTwitterやInstagramで小刻みな更新をするほどファンとの一体感が高まり、キャラクターのイメージを固めることも、広げることも可能。さらに、ファンの声を拾うことで満足度を高めつつ、今後のマーケティング(売り出し方)にも生かそうとしている。
また、テレビを主戦場にしているタレントは、少し出演番組が減っただけで「消えた」とオワコン扱いされてしまうが、決してそんなことはない。BS、CS、地方や通販の番組も多いし、テレビよりギャラのいいイベントも多く、実はさまざまな仕事をしている。
彼らはTwitterやInstagramなどを使って「今はこれを中心に頑張ってるよ」「だからここへ遊びに来てね」という気持ちを表現しているのだ。つまり、ネットツールさえ利用していれば、「あの人は今」タレントにならなくて済むのかもしれない。
キャッチボールと親近感がマスト
もう1つ気になるのは、かつてのようなブログではなく、「なぜTwitterやInstagramを使うタレントが多いのか?」ということ。もちろん「簡単だから」という単純な理由もあるが、それ以上に大きいのは"キャッチボールと親近感"。一般人がタレントに求めるものが、「憧れ」ではなく「親近感」に変わって久しい。「近寄りがたい」雰囲気ではなく、「気軽に声をかけたくなる」雰囲気がファン作りの必須条件になっている。
その点でポイントとなるのは、文章の長さとタイムラグ。ブログは大半が長めの文章が多く、ファンのコメント欄は短い。また、どちらも「書きっぱなし」になりやすく、両者のタイムラグも生まれやすい。タレントとファンがキャッチボールしづらいことが、そのまま心の距離になってしまうため、「ブログは宣伝ツール」という見方のタレントも増えている。
その証拠に、アメブロのランキングを見ると、相変わらず上位は主婦タレントが多い。タレントにとってのブログは、「あまりキャッチボールを求めない」主婦層ターゲットのものになりつつある。
一方、TwitterやInstagramは、タレントにしてみれば「都合のいいときに、ほどよくファンとふれ合えるし、スルーもできるから使いやすい」のだろう。また、「タレントのプライベートである仕事の合い間、早朝や深夜などに、リアルタイムタイムで会話のキャッチボールができる」ため、ファンの親近感はどんどん高まっていく。
「交際宣言」はトレンドにならない
私は取材でさまざまな現場に行くのだが、8~9割のタレント本人かマネージャーが携帯電話で写真を撮っている。芸能人はもちろん、アーティストやアスリートもしているのだから、もはや当たり前のことなのだろう。
しかし、TwitterやInstagramは、簡単にアップできる分リスクも高い。「そのときのテンションで書いてしまい、後悔する」パターンは一般人よりも多いのではないか。現在も「ダルビッシュの元恋人」と噂される古閑美保がネガティブなツイートを連発していたことが話題になっている。本人にしてみれば、「やりきれなかった」「自分を励ましたかった」のだろうが、マネージャーのコントロールすら効かない以上、"自爆"のリスクが高いのだ。
最後に、交際宣言の話に戻しておこう。ダルビッシュと安藤のケースが、これからのトレンドにはならないと思われる。それは人気や実績の微妙な人が交際宣言しても、「ただの売名行為」「痛々しいバカップル」としか思われないから。ネットを通じてわざわざ発表できるタレントは限られているのだ。これまで通り、「マスコミ報道を受けて、本人がコメント」という形が続くだろう。
もはや「モバイルを持つ一般人の全てが芸能記者」と言える世の中になった。タレントたちは、「隠し通すことは無理かな」というあきらめと、「ファンとマスコミを味方につけるためにどうしたらいいか」という2つの気持ちを抱えているのではないか。
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。