各家庭にはその土地ならではの食卓がある。自分にとって当たり前と思っていたご飯が、実は他の地域では見られないものだと分かった時の衝撃、きっと誰しも身に覚えがあるだろう。もちろん、逆の立場も。筆者はその衝撃を福井県で体験した。「福井県の食卓には小さな座布団がある」と。

「こちら、油揚げです」という言葉にびっくり!!

30分以上揚げて作ったフワフワ感

一般的な厚揚げとは違い、中はフワフワ食感が楽しめる

この小さな座布団の正体は油揚げである。油揚げと言えば、薄切りにした豆腐を油でサッと揚げ、中は空洞になっているものをイメージするのが一般的だろう。しかし、福井県の油揚げは厚い。ものによっては厚さは3~4cm程度にもなり、箸でつかみあげるとずっしりとした重みがある。

「厚い豆腐ならそれは"厚揚げ"だろう」と思うだろうが、中が詰まった豆腐の周りを揚げた一般的な厚揚げとは違い、福井県の油揚げの中はジューシーで、フワフワ食感の豆腐が何層にも重なっている。そして外はカリッと香ばしい。この油揚げは、木綿豆腐を30分以上かけて揚げて作るそうだ。

油揚げというと、煮付けや味噌汁の具材のひとつとして食卓に並ぶことが多い。しかし福井県では、そのまま焼いて大根おろしやネギ、かつお節をまぶし、醤油をちょっとたらすという油揚げのステーキが主役然として食卓に登場する。もちろん、煮付けや味噌汁、おでんの具になることもあり、家庭によってはカレーの具としても重宝されている。

精進料理に欠かせない具材

実際、福井市は油揚げの消費量で全国ナンバーワンとなっている。総務省の「家計調査(2011年~2013年)」によると、油揚げ・がんもどき消費量は全国平均3,113円に対して、福井市は5,788円。2位の京都市(4,771円)に1,000円以上の差をつけた。ちなみに3位は隣の金沢市(4,555円)で、9位には富山市(3,741円)がランクインするなど、北陸は油揚げ文化が根付いていることが分かる。

しかし、なぜ福井県でここまで油揚げを食べる文化が根付いているのか。地元の方にうかがったところ、そのひとつの理由として「報恩講(ほうおんこう)」があるのではと言う。報恩講は浄土真宗の法要のひとつで、福井県は元来、浄土真宗の信仰が盛んなことでも知られている。その際の精進料理に油揚げが使われていたことが、今日の食文化にも影響しているそうだ。

「やまあいの宿 なかがわ」で、川魚と一緒に油揚げを焼いていただいた

スーパーではいろんな油揚げが

では、福井県では一般的に知られている薄い油揚げはないのか? というとそうではない。一般的な油揚げは"うす揚げ"などと表記してスーパーなどで売られており、また、一般的な油揚げと区別するためか、"厚揚げ"と表記している油揚げもある。

さらによく見てみると、"中揚げ"というものもあった。メーカーによって異なるが、油揚げには100円程度のものから500円程度するものまで幅広くある。各家庭やシーンによって、これらの油揚げを使い分けているのだろう。

福井県内のスーパーにて。いろんなサイズ・形・価格の油揚げが並ぶ

福井県で出合った食材をもうひとつ。福井県北部に位置する坂井市は自然薯(じねんじょ)の名産地でもあり、毎年12月には重さや糖度を競う品評会を実施している。しっかりとした粘り気をもち、甘さはもちろん、かんだ時の歯ごたえも興味深い。すったものをワサビ醤油で食べるもよし、蕎麦にかけるもよし。ここまで粘り気があるならば、天ぷらにすることもできる。シーズンの今、自然薯にも注目していただきたい。

坂井市の名物でもある自然薯。中には1kg以上になるものも

ものすごい粘り気を放つ自然薯

のりを巻いて天ぷらに

※取材協力:福井県坂井市
※記事中の情報は2014年11月取材時のもの