「人格はメガネフレームに宿る」を合い言葉に、メガネのフレームからにじみ出る、その人の個性やキャラクターを勝手にプロファイリングするこの妄想コラム。
いわば、メガネのフレームがその人の“人格のフレーム”をも規定するのだという、逆転の発想です。あなたのメガネ選びにはきっとビタ一文役に立ちませんが、後編もはりきってお付き合いください。
浮世離れしたおしゃれ感――ラウンド型(シルバー)
アメリカの喜劇役者ハロルド・ロイドがかけていたことから、「ロイド型」とも呼ばれるまんまるのフレームがこれです。日本で発祥していたら、「ごはんですよ型」と呼ばれていたかもしれません。
今どき、現実ではあまり見かけませんが、漫画やアニメでは『テニスの王子様』の忍足侑士、『弱虫ペダル』の小野田坂道、『SLUM DUNK』の木暮公延などがこのラウンド型にあたると思います。
ちょっと浮世離れしたイメージもあるこのフレームをかけるのは、34歳、中目黒在住のインテリアデザイナーです。手帳は高橋ではなくモレスキン、腕時計はロレックスではなくフランク・ミュラーを身に付けています。
フェスはフジロックよりもあえての朝霧JAM派。ただし、3年前からはアメリカのイベント「バーニング・マン」に熱を上げています。
キッシュのことを「大げさな卵焼き」、徳川綱吉のことを「虫とか殺すと超怒る人」と表現するなど、常識はずれで突拍子もないことを言い出すこともありますが、天然なのか“独特の感性”を狙っているのかは判断しかねるところ。
最近は、楳図かずおハウスと日章旗とTENGAのカラーリングが同じであることに気付いたのを大発見だと思っており、ことあるごとに「日本人の精神性はこの色遣いに宿っている」と吹聴して周囲を困惑させています。
無難なオールドタイプ――ウェリントン型(黒)
正方形に近い大きめの角形で、40代以上がメガネと聞いて思い浮かべるであろうもっともオーソドックスな形がウェリントン型です。車でいえばカローラ、ビールでいえばアサヒスーパードライのような安定感があります。
『名探偵コナン』の江戸川コナン、『ピンポン』の月本誠、『ヒカルの碁』の緒方精次などが、このウェリントン型にあたります。
このフレームをかけているのは46歳、市役所に勤める地方公務員です。もとは事務機器メーカー勤務でしたが、30代にして思うところあり、社会人経験者採用で転職しました。民間職の経験があることをプライドとしており、「公務員プロパーの人は頭が固い」が口癖です。
カレー屋めぐりが趣味で、辛口レビューが売りのカレー探訪ブログを更新していますが、PV数は36/日。通勤中はスマホでまとめサイトを見ており、最近、思考がややネトウヨ寄りになってきていることに本人は気が付いていません。
匿名でTwitterアカウントを持っていますが、有名人に余計なリプライを送ってRTで晒されたり、セクシーな自撮りをアップしている女の子のアカウントに絡んで無視されたりするなど、どこにでもいるありふれた中年男性の生活をエンジョイしています。
ひょうきんな個性派――スクエア型(セルフレーム・黄色)
赤や青、黄色といった鮮やかな色をしたスクエア型のセルフレームは、ファッション性が高く個性的な印象を与えてくれます。『銀の匙』の八軒勇吾、『残響のテロル』の九重新、『黒執事』のグレル・サトクリフなどがこれにあたるでしょう。
中でも黄色のセルフレームをかける人は、58歳で大阪出身。芸能界を目指して落語家に弟子入りするタイプです。
バラエティ番組のレポーターや、風邪薬のCMナレーション、『魔法使いサリー』のよし子ちゃんのものまねなどで活躍することが多く、ダウンタウンにもいじられがち。もっぱら名字は「笑福亭」、名前は「笑瓶」です。
まとめっぽいことを書いてみます
いかがでしたか?「メガネのフレームから人格がわかるわけないだろ!」と思われたかもしれませんが、でも、人間って案外そういうものではないでしょうか。
だって、知的で繊細な文学青年になるべくして生まれたからって、「東雲春彦(しののめ・はるひこ)」みたいな名前を付けてもらえるとは限りませんよね?
名前という親から与えられた“フレーム”は自分で選べません。
むしろ、「鉄井堅志(かたい・てつし)」という名前を付けられたばっかりに、周囲からの期待に抗いきれず、頑固一徹でゴリゴリのマッチョな性格に育ってしまうのが人間ってものです。
知らず知らず“フレーム”に引きずられて人は生きているのです。
性別、血液型、星座、生まれ月、出身地……。私たちは、さまざまな属性という“フレーム”によって、分類されたがります。
「女ってこういうもの」「B型の性格だから」「福岡県民にはありがちだよね」と言われると、その“フレーム”に自らをあてはめて安心したいのです。
それならば、いっそ今かけているメガネのフレームに合った人格になってみるのもまた一興です。人生まるごとコスプレする気分で生きてもいいのではないでしょうか。
みなさんは私の言っていることがわかりますか? 私は自分で自分の言っていることがよくわかりませんが、きっとそれも、私がかけているサブカル気取りの黒ぶちスクエア型メガネのせいです。私のせいじゃありません。
福田フクスケ
編集者・フリーライター。『GetNavi』(学研)でテレビ評論の連載を持つかたわら、『週刊SPA!』(扶桑社)の記事ライター、松尾スズキ著『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)の編集など、地に足の着かない活動をあたふたと展開。 福田フクスケのnoteにて、ドラマレビューや、恋愛・ジェンダーについてのコラムを更新中です。