相手が喪中の場合、年賀状を送るのを控えるというのが一般的な常識として広まってしまっている。実はこれ、完全に正しい常識とは一概にいえないという。というのも、喪中であっても年賀状を受け取るのはマナー違反とならないからだ。

日本郵政が公開している喪中はがきのテンプレート。「年賀状を受け取る」という一文が添えられている

では、どうして「喪中の方には年賀状を出さない」という習慣が広まってしまったのだろうか。実はこれは喪中はがきに書かれる文面の誤解にある。例えば「親族の喪中につき、年賀のご挨拶はご遠慮申し上げます」という一文が書かれていたとしよう。この一文の意味は、“喪中の人が挨拶を行わない”ということであって、“年賀の挨拶を受けない”ということではない。実際「皆さまからの年賀状は励みにもなりますので、どうぞ例年どおりお送りくださいませ」や「年賀状の無いお正月は、さみしいものです。皆さまからの年賀状は、いつものようにお待ちいたします」といった一文が添えられていることもある。ご遺族の方を励ます意味でも年賀状を出すことに意義はあるのだ。

実際に喪中の方への挨拶を行っている人はどれくらいいるのか。ネオマーケティングの調査によれば「何も出していない」が62.2%、「相手によって寒中見舞いを出している」が18.6%、「寒中見舞いを出している」が12.3%、「年賀状を出している」が4.8%、「相手によって年賀状を出している」が4.1%、「喪中はがきが届いたことがない」が2.8%、「その他」が0.8%となっている。実に6割以上の人が何も送っていないのだ。

一方、喪中の方は年始の挨拶についてどう思っているのか。同じくネオマーケティング社の調査によると62.1%の方が「年賀状が届かないのはさみしい」と答えている。また、この調査時に回答者からもらったコメントには「年一回のやりとりの人も多いので、喪中でも途切れるよりはもらった方がうれしい」「親を亡くしてつらかったが、温かい言葉の内容のはがきをもらって、嬉しかった」といった内容が目立った。特に女性にこの傾向が強く、7割近い方が「さみしい」と答えている。このことからも、喪中を知らされたからといって年賀状を出さないというのは、かえって相手につらい思いをさせるということがわかる。

葬儀相談員市川愛事務所リリーフ代表・市川愛さんによると、「喪中の家族は、初詣にも出かけず、松飾もありません。そして、年賀状も届かないので、とてもさみしいお正月となります。そんな中で、年賀状を受け取りたいと思う方もいらっしゃいます。喪中の方に対しては、新年を喜ぶ年賀状というよりは、年始に出す『喪中見舞い』『年始状』という性格のものと考え、文例としては『お悔み』のお手紙の簡略版や、遺族を励ます便りと考えればいいでしょう」という。

「あけましておめでとう」や「謹賀新年」といった語句は使わず「一陽来復」や「晴れやかな年になりますように」といった文面の「寒中見舞い」「年始状」「喪中見舞い」にすれば、相手に思いやりの気持ちが通じるはずだ。