米国では感謝祭の翌日の金曜日、小売業者が年間で「黒字」に転じる日とされる「ブラック・フライデー」からクリスマス商戦が本格的に始まる。

NRF(全米小売連盟)によれば、今年のクリスマス商戦の売上は前年比4.1%増と予想されている。昨年実績が同3.1%、過去10年間の平均が同2.9%とのことなので、予想通りであれば今年は比較的「盛り上がる」方に分類されそうだ。

今年に入って雇用はほぼ毎月20万人以上増えており、失業率は10月に5.8%と、労働需給のひっ迫によって賃金インフレになるといわれる水準(5.0~5.5%)にかなり接近している。株価は史上最高値を更新している。ガソリン価格は低下しており、それ以外の購買に回せる資金を増やしている。そうしたことから、11月の消費者信頼感は7年ぶり、つまりリーマン・ショック前以来の高水準に達している。

もっとも、クリスマス商戦が期待外れに終わるリスクがないでもない。例えば、過熱気味の株価が何らかのキッカケで急落するようなことがあれば、消費マインドが一気に冷え込むこともありうるだろう。12月中旬には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を決定するFOMC(公開市場委員会)を開催する。そこで、現時点で来年後半とみられている利上げ開始観測が前倒しになるような材料が出てくれば、そうした「負のクリスマス・プレゼント」に対して、市場は大いに驚くかもしれない。

気象要因にも、注意が必要だろう。厳しい寒波が北東部や中部などを襲うケースだ。冬物や除雪機材の売上は伸びるかもしれないが、大雪などになれば、ショッピングモールを訪れる人の数が激減しかねないので、トータルではマイナスだろう。その他にも、ミズーリ州ファーガソンの暴動がニューヨークなどの大都市に広がる兆候は既にあるようだし、報道は下火になっているとはいえ、エボラ出血熱の米国内感染のニュースなどが新たに出てくれば、やはり消費マインドを冷やしかねない。

クリスマス商戦の動向は様々な形でチェックできる。ニュース報道はもちろんのこと、ショッピングモールの売上高や人出、クレジットカード会社の利用状況などのデータが数日程度の遅れで発表される。なかには、「○×△のショッピングモールに行ったら、人出は去年より多かったけど、買い物袋を下げている人は少なかった」といった、在米知人の「貴重な」体験情報が入ってくることもある。

残念ながら、クリスマス商戦がよほど盛り上がるか、よほど期待外れに終わるケースを除けば、それらの情報が全て同じ方向を指すことは稀だ。そして、年が明けて正式なデータが発表される頃には、投資家はクリスマス商戦に対する関心を失っていることが多い。

そうであっても、クリスマス商戦は年に一度の「お祭り」であり、投資家は速報データに一喜一憂することになるのだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。