25日に発表されたOECD(経済協力開発機構)の世界経済見通しを見ると、好調国と停滞国への二極化が見られます。先進国ではアメリカの一人勝ち、新興国では資源国の不振が際立ちます。シェールガス・オイルの増産で好調なアメリカが、資源国の成長エネルギーを吸い取ってしまった感があります。

(1)先進国ではアメリカの一人勝ち

OECDの5月見通しと比較すると、成長率は、世界的に引き下げられています。その中で、先進国では米国の一人勝ちが、いよいよはっきりしてきました。

日本の成長率は、2014年見通しが+1.2%→+0.4%、2015年が+1.2%→+0.8%に引き下げられました。2014年の引き下げは当然ですが、衝撃的なのは2015年の見通しも引き下げられたことです。10月の消費税引き上げ延期を織り込んでも、日本の回復は鈍いと判断されました。

ユーロ圏もデフレ懸念が強まり、2014年見通しが+1.2%→+1.1%、2015年が+1.7%→+1.1%に引き下げられました。

米国は、2014年見通しが+2.6%→+2.2%、2015年が+3.5%→+3.1%に引き下げられましたが、2016年も+3.0%と高く、先進国で一人勝ちが続く見通しとなっています。

(2)新興国では資源国が沈み、非資源国は相対的に堅調

新興国では、ブラジルやロシアなど資源に頼って成長してきた国が不振です。一方、インドは好調です。モディ首相の経済改革が成功していることもありますが、輸入資源の価格が下がった恩恵もあります。なお、中国のGDP統計は信頼性が低いものの、中国も一応、高成長を維持する見通しです。

二極化を生じている原因を突き詰めていくと、アメリカのシェールガス・オイル革命にたどりつきます。アメリカが安価な国産ガス・オイルを大量に生産するようになったため、天然ガス・原油の国際市況が急落し、つれて、鉄鉱石や石炭の市況も軒並み大きく下がりました。そのあおりを食ったのが、資源輸出によって高成長を保ってきた新興国です。ロシア・ブラジル・ナイジェリア・中東産油国の経済見通しは急速に悪化しています。

(3)米国のシェールオイル増産で原油の国際市況が急落

アメリカのシェールガス増産の影響は、最初、天然ガスの世界市況に表れました。最初はガス価格だけが下がり、原油価格は高値を保っていました。アメリカの非在来型(シェール)エネルギーの生産が、ガスに片寄っていたからです。

ところが、アメリカの非在来型エネルギー増産の影響が今年はついに世界の原油市況に及びました。天然ガス価格が下がり過ぎた影響で、アメリカ国内のシェールガス掘削業者は利益をあげられなくなりました。そこでアメリカ国内では、シェールガスの生産を抑えシェールオイルの増産をはかる動きが顕著になったからです。

シェールオイル掘削リグ(C)石井清

アメリカは、シェールガスやシェールオイルを原則輸出していません。ただし、アメリカはもともとエネルギーの巨大な輸入国だったので、国産エネルギーの増産で中東からのエネルギー輸入を減らす影響が、世界中に及びます。

中東諸国は、アメリカが買わなくなった原油やガスを、ヨーロッパへの輸出強化でカバーしました。ヨーロッパは、中東から安いエネルギーが流れ込んできたので、ロシアからのエネルギー輸入を減らしました。ロシアは、ヨーロッパへのガス輸出が減って、経済が急速に冷え込んでいます。ウクライナをめぐる対立がロシアのガス輸出に影響している面もありますが、ウクライナ問題がなくても、シェールガス・オイル革命の影響で、ヨーロッパへのエネルギー輸出は減る運命にあったと言えます。

中東で地政学リスクが高まると、かつては原油供給が減る懸念から原油価格が上昇しました。ところが今は、世界中で、天然ガスや原油の供給がだぶつき、イラク・シリア・イスラエルなどで地政学リスクが高まっても、原油価格はそれに反応しなくなりました。

(4) 日本経済は、エネルギー価格急落で大きな恩恵を受ける

世界一割高なLNGガスを中東から輸入して苦しんでいる日本経済にとって、資源価格の急落は大きなメリットです。ただし、経済へのプラス効果が発現するには半年以上のタイムラグが必要です。日本は、原油を戦略的に備蓄しており、原油価格が下がった後も、しばらくは高値在庫が残っているからです。2015年にはプラス効果が顕著になると見ています。

2015年(暦年)に日本のGDPが+0.8%しか成長しないというOECDの見通しは悲観的すぎると考えています。私は、円安効果・原油価格下落効果・米景気好調の恩恵などによって、2015年のGDPは+1.2%成長すると予想しています。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。