現在、様々な会社から発売されているスタイラスペン。ペンタブレット「Intuos」や「Cintiq」シリーズを展開する、クリエイター御用達のメーカー ワコムからも「Bamboo Stylus solo」「Bamboo Stylus duo」、「Bamboo Stylus fineline」、「Intuos Creative Stylus 2」といった数種のスタイラスペンが販売されている。今回はこれらの製品に対する同社の想いを、マーケティング担当者である則行あかね氏に聞いた。

同社のマーケティング担当者である則行あかね氏

――iPhone6が発売され、画面サイズが大きくなりました。よりスタイラスペンの需要が増してきたなか、9月に4つの新製品を発表されましたね。

はい。第3世代目となるBamboo Stylus solo、Bamboo Stylus duoと新しくペン先の細いタイプで筆圧感知をするBamboo Stylus fineline、Intuos Creative Stylus 2を発表しました。今回のBamboo Stylus soloとduoで、目新しさはペン先ですね。導電繊維を使っているので、滑らかさが増したのと、摩擦が少なくなるので、かなり耐久性もアップしました。それから、第2世代はペン先の細さを追求し5ミリだったものを6ミリに変更しました。これは近年様々なデバイスが発売されていて、それらのデバイスに幅広く使えるように最適化を図った結果です。

――使われている導電繊維もワコム独自のものを採用されているとのことですが、その理由は?

他社のものを利用することもできたのですが、今回はナイロンに炭素粉末を混ぜた特殊な繊維を、ワコムオリジナルで開発しました。そこにこだわった理由はやはり滑らかさと耐久性にあります。当社の検証結果ではこれまでの自社スタイラスペンの10倍ほどの耐久性を実現しています。スタイラスペンというと、絵を描いたり、文字を書いたりすることを想像される方が多いのですが、実は一番多い使われ方としては、画面のナビゲーション操作なのです。操作をする上でのスムーズさを追求したことと、ゴム素材だと画面にタッチした跡が残りやすいなどの課題を改善するため、オリジナル導電繊維を採用しました。

――そのほか、たくさんある他社のスタイラスペンとの違いは?

ひとつのペンを永く使っていただきたいので、当社の製品は基本的にペン先が交換できるようになっています。壊れてしまったら新しいものを購入いただかないといけない製品が多い中、ペン先が交換できる製品はめずらしいですね。交換用のペン先も他社よりお求めやすい価格でご提供しています。

――デザインに関してもこだわりはありますか?

 第3世代Bamboo Stylus soloとduoに関しては1枚のアルミ板をプレスして作っているデザインが特徴です。また、書くことに集中できるデザインがテーマでしたので、ペン先の形状をよりアナログなペンらしさを実現するということを意識して開発しました。実はこの製品は、全世界共通して“Made in Japan”なんです。我々の製品はその製品によって商品企画やデザイナーのメンバーが違うのですが、今回は商品企画もデザイナーも日本人が担当しています。

――iPad向けの極細スタイラスペン「Bamboo Stylus fineline」の特徴は?

大きく分けて5つあります。やはり一番の特徴は細いペン先です。その細いペン先でより自然で滑らかな書き心地を実現させるため、ペン先に“ポリアセタール”という樹脂を使っています。ふたつ目は対応するアプリケーションをご使用いただくことで活用いただける筆圧感知です。よりアナログに近い感覚をiPad上で再現できるようにこだわっています。3つ目は対応するアプリケーションによって異なるのですが、サイドスイッチの割り当てです。例えば当社が開発しているBamboo Paperでは、サイドスイッチに消しゴムを割り当てることで、ペンを選択しておきながらも、サイドスイッチを押したまま操作をすることで消しゴムとして使うことができるのです。アンドゥなどに設定することもできるのですが、デジタルならではの機能だと思います。4つ目は、パームリジェクション機能です。対応しているアプリで、パームリジェクション機能に対応している場合、手を画面につきながらペンを使ってもペンに優先して反応するため、誤動作なく作業ができるようになります。最後に、2時間の充電で約26時間の連続使用ができることも特徴ですね。充電が必要となるスタイラスペンの中ではかなり長いほうだと思います。

――クリエイター向けのハイエンド製品にあたる「Intuos Creative Stylus 2」の特徴は?

デザインは「Intuos Pro」のペンを踏襲したもので、“フレア形状”と呼ばれる持ちやすさが特徴ですね。クリエイターの場合、長時間使用になるので持ちやすさに対する要望が強いのです。また、前機種ではペン先の素材はゴムで6mm径でしたが、使う方の好みもありますが、径が太いと描く際に描画される線とペン先との位置関係が分かりづらいという声もありました。ペン先の材質をゴムから樹脂に変更することで、ペン先の太さを細くするとともによりアナログのペンに近い形状にすることができました。それから、この製品とBamboo Stylus finelineは1本1本工場でスペック通りの筆圧感知が出ることを確認し、SDKを介してきちんと表現できるように調整してから出荷しています。そこは当社のこだわりですね。

――今回からバッテリーが乾電池ではなくなっていますよね。

そうです。乾電池を入れると後ろが重くなってどうしても書く際にバランスが悪くなってしまっていたのが改善されました。USB経由で充電できるコネクタを仕込んであります。

――クリエイターの方が独自でグリップを作って換えたりカスタマイズしている方も多いのですが、メーカー側で純正の商品を発売するということは考えていないのでしょうか。

技術的な制約がない限りはやってみたいとは思っていますが、スタイラスペンでのグリップというのは今のところはないですね。Intuos Proの場合はグリップが太いものもあります。

――デジタルペンのこれからのあり方についてワコムとしてはどのように考えていらっしゃいますか?

紙を完璧になくすべきだとは思っていません。紙は紙で良い部分がありますし、それを踏まえた上でデジタルペンの便利さを提供していきたいと考えています。例えば、アナログのペンにも種類がたくさんあるのと同様に太さやデザインが異なる製品を提供したり、ノートの代わりとなるアプリなど使用環境も踏まえて開発を行っています。今回発売したBamboo Stylus finelineのようによりアナログっぽさを体感できる製品を、今後も開発していきたいと思っています。

――ビジネス用途での筆圧感知機能の搭載にはどのような意図があるのでしょうか。

これまでも紙にメモを書く時に意識はしていなくても薄い字があったり、太い字があったりしますよね。それをデジタルでも表現したいというのが当社のこだわりなのです。筆圧感知はイラスト制作のための機能だと思われがちですが、我々としてはデジタル上でアナログを再現させるひとつの要素であると考えています。なくてもいいという方もいらっしゃると思いますし、実際社内でもなくてもいいのではないかという議論もありました。私自身も最初はなくてもいいのかなと思っていたのですが、アナログで書いている時は、少なからず筆圧は関係しています。それをあえてデジタル上でなくす必要はないよねという結論に至りました。

――ありがとうございました。

クリエイターがより繊細なタッチを再現するために磨いてきたと思っていた筆圧感知機能を同社では「デジタル上でアナログを再現させるひとつの要素」と表現したことが非常に興味深かった。タブレットPCやスマートフォンなど、"紙"に代わるデバイスは数多く生まれているのに対し、"筆"に代わるものがあまり生まれていない現状。この状況をどう打開していくのか、今後のワコムに期待したい。