人の顔を使ったプロジェクションマッピング「OMOTE」の舞台裏

ここからは2名のゲストスピーカーを迎えてのセッションとなる。最初は、映像制作会社「P.I.C.S.」のプロデューサー・浅井宣通氏による「テクノロジーは夢を見る」。浅井氏は、世界中で話題を集めた"人間の顔"に投影するプロジェクションマッピング「OMOTE」の制作者として、一躍時の人となった人物だ。冒頭の挨拶では作品の反響の大きさをあらためて実感している様子が窺えた。

映像制作会社でミュージックビデオやCMを作っていたが、最近になってプロジェクションマッピングの企画やプロデュース、テクニカルディレクションに携わるようになったという浅井氏。「OMOTE」は仕事ではなく、プライベートなプロジェクトとして友人と3人で作ったという。8月中旬に動画投稿サイト「Vimeo」にアップロードしたところ、1日で100万アクセスという世界的な広がりを見せ、まだ公開から2カ月ほどしか経っていないにも関わらず、世界各国からイベント出演依頼や具体的な制作依頼が相次ぐなど目まぐるしい日々が続いているという。

「OMOTE」は自主的なプロジェクトのため予算がなく、有名なモデルを使うこともTVや新聞などでの紹介もなかったが、同作品がコンテンツの力だけで世界に伝わったことによって、「作品力(おもしろさ)=媒体力」であることをあらためて感じたという。面白い物を作れば世界中の人が見てくれるということは、すべての人に開かれている可能性であり、素晴らしいことだと語った。

リアルタイムトラッキングフェイスプロジェクションマッピング「OMOTE」

「OMOTE」を制作・公開した浅井宣通氏

続いて、「OMOTE」のメイキングの紹介となった。同作品のタイトル「オモテ」とは「能のお面」のこと。3Dで制作したお面を顔にかぶせることがコンセプトになっているという。まずは女性モデルの顔を3Dスキャニングして「ポイントクラウド」と呼ばれる点の集まりからなるデータを作成。その点同士をつないで面にした3Dモデルを作り、同時に発泡スチロール製のモックアップを組み上げたという。

次に行ったのは「テクスチャシューティング」。ヘアメイクアーティストが実際に顔にメイクしたものを3方向から撮影し、そのデータを3DCGソフトで3Dモデルにテクスチャとして貼り付けることで、パソコン内で動かせるリアルな3Dモデルになるという。そのテクスチャをはがした、やや不気味な2Dの顔データを土台として、アニメーションを作成していくとのことだ。続いて、顔の位置を検出する「キャリブレーション」や動いた顔の位置を取り込む「モデリング」をすることで、パソコン内の3Dモデルと実際の女性モデルの顔の動きと同期し、パソコンの画面に映っているものを女性モデルの顔にプロジェクターで投影することで、ピッタリ合う仕組みになっているという。

まずは女性モデルの顔を3Dスキャニング

ポイントクラウドと呼ばれる点の集まりから3Dモデルを作成

メイクした顔を3方向から撮影し、3Dモデルにテクスチャとして貼り付ける

テクスチャを剥がし平面の顔を土台にアニメーションを作成

プロジェクションマッピングのもととなる素材

映り込みをリアルタイムに計算しながら投影(テスト)

また、このような作品を作る上での大切なポイントとして、「テクノロジーの精度」(位置がズレていたりタイムラグが生じると面白くないから)、「クライアントワークでは精度の追求が難しい」(開発時間が足りないから)、「表現について」(テクノロジーのギミックだけでは、人は感動しない)、「普遍性と時代性」(変わらないものと時代によって変わるものの両方が必要だと語る。

OMOTEの場合の"普遍性"は日本の伝統や美意識、"時代性"はテクノロジーによるギミック)、そして「根性」(あきらめないこと。OMOTEは途中何度も挫折しかけたが、6カ月かかって完成した)という5つを挙げた。このほか、友だちが集まって作りはじめたが内容がまとまらず、毎週夜中まで徹底的に議論して皆が納得できるまで詰めた結果、ひとりではできない優れた作品ができたという経験から感じた「コラボレーションのメリットとデメリット」や、好きでなければ夢中になれない、好きでやっていれば気づいたときには上達しているという"「好き」力"や、自分が面白いと思うことによってエネルギー源となる"「ワクワク」力"、そして記憶をコーヒー豆、パッションは熱湯、創造力を作品に例えた方程式「創造力=記憶×パッション」、そして自分の中のやる気は何だろうと考えた浅井氏が共感できるという楽曲として、槇原敬之の「ぼくの一番欲しかったもの」を紹介。会場内に曲が流れたのちエンディングとなった。

「無から有を生み出す物」と言う意味ではクリエイターは「創造主」

キーノートセッションのラストは、クリエイティブラボ「PARTY」を率いるクリエイティブディレクター・伊藤直樹氏による「BE CREATOR! ~君は神になりたいか~」と題されたセッションだ。 伊藤氏は最初に「クリエイター」という言葉について、イギリス人の英会話の先生から「クリエイターを英語にすると創造主(つくりぬし)を意味する」と指摘されたエピソードを紹介。その瞬間は顔が赤らんだものの、自分でクリエイターと名乗ることもあながち悪いことではないと感じたという。その理由として、「創造主」や「神」というのは言い換えれば「無から有を生み出した者」であり、われわれクリエイターが常に感じている「今までになかったものをこの世に生み出したい」という思いと合致しているからだという。ネット上には多くの「神」が存在するが、その人たちはきっと無から有を生み出した人であるからこそ称賛されるのだとし、「自分たちも常にそうでありたい」という思いを明かした。

PARTYを率いる伊藤直樹氏

クリエイターの英訳「創造主」とは、つまり「無から有を生み出した者」

続いてスクリーンに映し出されたのは「12(9)」という数字。これは、同社で最も多くのソフトウェアを扱えるデザイナーが、実際に扱えるソフトウェアの数だという。合計12種類で、そのうちアドビ製品が9種もあり、ひとりで何でもできてしまう「フルスタック系」として頑張っているという。

ここで伊藤氏は自分の過去を振り返り、20歳では「何かを作りたい」という思いがあったものの引きこもりであったが、25歳で広告代理店に入社してひきこもりは卒業。それでも「1人がいい」と思っていたが、30歳になりもの作りはできるが「ひとりでは限界」だと感じたという。35歳でもの作りをしてきたが「皆とやることは大変だ」という思いが募ったが、40歳で皆とのやり方がわかり、震災直後に「PARTY」という会社を設立。東京とニューヨークに拠点を置き、現在30名ほどのクリエイターが在籍しもの作りをしているという。

PARTYとは「徒党」であり、その意味は「あることをなすために団結する」ことだ。伊藤氏は、本当は「孤高」が好きだが、無から有を生み出すためには徒党を組むほうがいいと感じたとそうだ。続いて、同社が携わった数々のプロジェクトを、制作費とそれに関わった人数とともに紹介。最後に制作費300億円(当時の貨幣価値で30億円)で21万人もの人が関わった「東京タワー」の例を挙げ、「いつかは21万人の規模で東京タワーのようなものを作りたい」という夢を語り、キーノートの最後を締めくくった。