公的年金の運用見直しを議論する「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」の座長を務めた政策研究大学院大学教授の伊藤隆敏氏が10月21日、日本記者クラブで会見し、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革をテーマに、見解を述べました。

伊藤隆敏氏

「年金改革は100年先の受給者のことを考えて進めるべき」

伊藤氏は、

『年金改革は100年先の受給者のことを考えて進めるべきだ。まだ生まれていない受給者の代弁者は誰になるかというと、それは政府になる。その政府が設けた有識者会議で座長を務めてきたが、年金には深刻な世代間利害対立があり、それを解消することが改革の要点とも言える。

まずは年金財政を改善する必要があるが、そのためには、(1)年金保険料を引き上げる、(2)年金給付水準を切り下げる、(3)年金受給開始年齢を引き上げる、(4)投入する税金額を引き上げる、(5)GPIFのリターンを改善させる、などの手立てがあるが、(1)から(4)は国や政府が主体となるべきものだ。

つまり、GPIFは、年金財政や年金システム全体の改善を考える立場になく、(5)のリターンを改善させるために、130兆円の資金をどのように運用すべきかを考え、ポートフォリオを組んでいくという立場にある。

だが、これまでのGPIFのポートフォリオは、デフレ脱却の環境に適したものになっていなかった。海外の公的年金基金や国内の企業年金連合会のリターンと比べても、GPIFのリターンは低い。過去にもっとリターンを得られたはずだ。

今後は将来の経済状況を予測し、それを前提にポートフォリオを組む姿勢が望ましい。中期的にはリスク資産への積極投資も必要であり、また、長期的にはインフラ投資、不動産投資も進めるべきだろう。この20年で、世界の考え方は不動産など流動性のないものでもリターンを求める時代に変わってきた。GPIFにはその哲学が入っていない。広い視野を持つことが大切だ』

と述べました。

「今後はGPIFにも運用の専門家が必要になってくる」

また、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の年金部会で議論が進められたガバナンス改革については、

『将来的には合議制を導入し、独立行政法人から法人形態を変える必要があるだろう。今後はGPIFにも運用の専門家が必要になってくる。つまり、ストラテジーを立てる人材であったり、株式の専門家、債券の専門家など各分野の専門家が必要になるのだ。

そのためには、良いポートフォリオマネージャーを雇えるネットワークを持つ人物が幹部に就くべきであろう。ガバナンス改革を実行するためには、時間もかかってしまう上、法律改正も求められる。厚生労働大臣にも提言やお願いをしてきたが、将来の年金受給者のことを考えた改革を早急に推進していくことが何より重要だ』

と自身の理念や見解を示しました。

10月31日、GPIFは新しい資産構成の目安を発表しました。株式と債券を半分ずつとし、国内資産は6割、海外資産は4割にし、これまで6割を占めていた国内債券の割合を35%まで引き下げるとしています。その内訳は、国内債券が60%→35%へ、国内株式が12%→25%へ、海外債券が11%→15%へ、海外株式が12%→25%へと運用比率を変更しました。

ガバナンス改革を含め、転換後のGPIFの動向と運用成績には今後も注意を払う必要があるでしょう。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。