今クールのドラマを見て「よくもこれだけ強い女がそろったものだ」と思っていたら、それと同じくらい「ダメ男が多い」ことに気づいた。

たとえば、"強い女"は『ドクターX』の大門未知子(米倉涼子)、『ファーストクラス』の吉成ちなみ(沢尻エリカ)、『ディア・シスター』の深沢美咲(石原さとみ)、『ごめんね青春!』の蜂矢りさ(満島ひかり)、『女はそれを許さない』の海老沢凛香(寺島しのぶ)、『黒服物語』の杏子(佐々木希)、『玉川区役所OF THE DEAD』の立花凛(広瀬アリス)など、主演・準主演クラスでズラリ。

一方、"弱い男"は『信長協奏曲』のサブロー(小栗旬)、『素敵な選TAXI』の枝分(竹野内豊)、『黒服物語』の小川彰(中島健人)、『玉川区役所OF THE DEAD』の赤羽晋助(林遣都)、『地獄先生ぬ~べ~』の鵺野鳴介(丸山隆平)、『ごめんね青春!』の原平助(錦戸亮)、その他、『ファーストクラス』『ドクターX』の男性キャストも、ほぼ噛ませ犬ばかりだ。

なぜここまで"強い女"と"弱い男"が一気に増えたのか? ドラマ解説者の視点から、その理由を探っていく。

テレビ業界は女性優先の流れ

『ファーストクラス』吉成ちなみ役の沢尻エリカ

現在のテレビ業界は、「リアルタイム視聴の多い」女性を中心にした番組制作が進んでいる。昼に『笑っていいとも!』が終わって『バイキング』がスタートしただけでなく、夜の番組でも生活情報番組が増えているのは、明らかに女性視聴者を重視しているからだ。同様に、ドラマのメイン視聴者となるのも女性。そのため内容は必然的にヒロインが主演のものが増え、「"弱い男"たちを"強い女"がやっつける」という図式が増えていくのだ。

ただ、「単に強いだけのヒロインでは共感を得にくい」ため、天然ボケやコンプレックスなどのスキを交えて、視聴者に親近感を持たせている。さらに今年は、確実に共感を得るために『花子とアン』のようなダブルヒロインのドラマが目立つ。今クールも『ディア・シスター』『さよなら私』『女はそれを許さない』の3作があり、「どちらかのヒロインに感情移入してもらおう」という意図がうかがえる。恋や仕事に向かうスタンス、人間関係のこなし方、服やヘアメイクなどのオシャレ……ドラマ制作スタッフは、いろいろなポイントで女性視聴者の共感を得ようと試行錯誤しているのだ。

「ヒロインのつらい状況を見たくない」心理

『ドクターX』大門未知子役の米倉涼子

また、かつてのような「イジメられるヒロイン」「不幸続きのヒロイン」が減った分、強い女が増えたとも言えるだろう。現代の視聴者はヒロインが長い間、つらい状況でいることに耐えられなくなっている。たった一週間、つらい状況を持ち越しただけで、「見ていられない」「安心して感情移入できない」と嫌がってしまうくらいだ。

たとえば、『ごちそうさん』で話題になった朝ドラ名物の嫁いびりですら、め以子(杏)は結局受け流せていたし、学園ドラマでもいじめがテーマの話は次週に引きずらないようになった。「ドラマの中くらいはスカッとしたい」という視聴者の思いを制作側が受け止めているのだ。

朝ドラですらそうでないのだから、"弱い女"の成長を描くドラマは必然的に減っていく。たとえは古いが、「『おしん』『スチュワーデス物語』のような苦難に耐え抜くヒロインも見てみたい」と思うのは、もはや男性視聴者だけなのかもしれない。

さらに、強い女を引き立てるために、パートナーの設定をダメ男にする作品も多い。『ドクターX』の海老名敬(遠藤憲一)や原守(鈴木浩介)、『ディア・シスター』の櫻庭永人(岩田剛典)や萩原陽平(平山浩行)、『女はそれを許さない』の滝口泰輔(溝端淳平)らは、ヒロインを輝かせるための貴重な助演なのだ。視聴率などテレビ評価の指標が変わらない限り、今後も女性優先の流れは続いていくだろう。

2年間で40人超! 熾烈なヒロイン争い

『ごめんね青春!』蜂矢りさ役の満島ひかり

今回ヒロインを務める女優を曜日順に挙げてみると……仲間由紀恵、武井咲、永作博美&石田ゆり子、深田恭子&寺島しのぶ、綾瀬はるか、沢尻エリカ、沢口靖子、米倉涼子、石原さとみ&松下奈緒、榮倉奈々、満島ひかりと、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。

さらに、主演を張れる女優はまだまだ多い。この2年間で20~24時の連ドラ主演を務めた女優だけでも、松雪泰子、上戸彩、広末涼子、水川あさみ、上野樹里、小泉今日子、杏、尾野真千子、名取裕子、観月ありさ、小野ゆり子、天海祐希、芦田愛菜、原田知世、檀れい、長澤まさみ、財前直見、優香、川口春奈、竹内結子、堀北真希、新垣結衣、西内まりや、江角マキコ、田中麗奈、松嶋菜々子、篠原涼子、羽田美智子、鈴木京香、黒木瞳、戸田恵梨香、剛力彩芽と、これだけのヒロインがいるのだ。

事務所が大切に育て上げた主演女優だけでなく、モデル、アイドル、子役出身など、今やヒロインに向かうさまざまなルートが確立されている。これだけの人材がしのぎを削っているのだから、演技力・精神力・美貌の全てでレベルアップしなければ生き残れない厳しい世界。つまり彼女たちは、"強い女"を演じられるスキルもメンタルも持ち合わせているのだ。

主演男優が減った理由とは?

『女はそれを許さない』海老沢凛香役の寺島しのぶ

"弱い男"が増えたのは、"強い女"を引き立てるためだけではない。「クライマックスの一瞬だけ見せるカッコイイ姿」「徐々に成長していく姿」がいい意味でのギャップとなるからだ。また、男女ともに、現代の一般男性が精神・経済両面で頼りなくなっていることを分かっているため、「"弱い男"の方がリアリティを持たせやすい」という側面もあるだろう。

もう1つの側面は、「見るからに強いヒーローを演じられる主演男優が減った」こと。90年代からドラマ界を牽引してきたジャニーズ勢の視聴率不振に加え、20代の若手俳優に飛び抜けた存在がいない、中堅・ベテランは演技派ほど「作品選びも撮影もじっくり行える」映画を軸足にする人も多い、など理由は多岐にわたる。さらに、「運も左右するドラマ視聴率で、看板俳優にミソをつけたくない」と慎重になっている芸能事務所も多く、ドラマ業界は主演男優不足に陥っているのだ。

その証拠に、かつて次期スター発掘の場だった学園ドラマのメインは女生徒になり、男優の独壇場だった刑事ドラマですら主演に女優を据える作品が急増。すなわち、どの年代の男優も主演女優の脇役に回りがちなのだ。時には"完全無欠のヒーロー"が見たいところだが、特撮やマンガでも減っているくらいだから、しばらくは難しいのかもしれない。

最後は綾瀬はるかも"強い女"に?

"強い女"がウケているのは、『ドクターX』の視聴率が全話20%を超えていることからも明白。2番手の『きょうは会社休みます。』が、"弱い女"と"女扱いに慣れたイケメン"の物語であるのも女性目線のドラマが増えている証拠だが、もしかしたら最終回では青石花笑(綾瀬はるか)が"強い女"なり、イケメンたちがひれ伏しているかも……。

ちなみに、平日夕方の人気番組『5時に夢中』(MX)で行われた「のび太と出木杉、どっちと結婚したい?」という女性100人アンケートでは、"弱い男"の筆頭である、のび太が56票を集めて見事勝利。その理由は「ダメ男を育てたい母性」「私色に染めたいから」だった。すでに一般人女性も"強い女"の方が多いようだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。