米国の中間選挙で野党の共和党が圧勝し、もともと過半数を握る下院で議席を伸ばしただけでなく、上院でも過半数を奪った。投票日翌日のNYダウは100ドル超上昇し、ドルは主要通貨に対してほぼ全面高となった。ただ、それは市場が共和党議会の誕生を好感したというよりも、一部の州での結果判明が1~2か月遅れて上院の帰趨が決まらない、そうした政治的空白が長引くリスクが実現しなかったことへの安心感の方が大きかったようにも思える。
来年1月にスタートする新しい議会において、両院を支配する共和党は、法案審議でかなり優位な立場に立つことになる。共和党の基本的な経済政策のスタンスは、財政健全化、規制緩和、自由貿易、企業・富裕層寄りの税制などであり、それらがうまく機能すれば米国経済の足腰を強化し、株高やドル高をもたらす要因となるポテンシャルを秘めていそうだ。
ただし、今回の選挙で、株価が史上最高値を更新し、相応の景気回復が続くなかで、与党民主党は惨敗した。それは、オバマ大統領の外交・内政の手腕に対する批判もさることながら、経済面では所得格差の拡大によって多くの有権者が経済繁栄の果実を享受できていない点が大きく響いたのではないか。そうだとすれば、上述した共和党の政策スタンスでそうした問題が解決できるとは思えない。
共和党は、上院100議席の過半数を押さえたとはいえ、フィリバスター(少数政党による議事妨害)を阻止するのに必要な60議席に届かなかった(共和党は、結果が判明していない残り3議席全てを取ったとしても計55議席)。ましてや、議会を通過させた法案に大統領が拒否権を発動した場合に、それをオーバーライド(覆すこと)するのに必要な両院の3分の2以上の議席を獲得したわけでもない。共和党が自力で成し遂げられることは限られるのだ。
共和党は、選挙結果がオバマ政権に対する「ノー」であり、必ずしも自分たちの政策が有権者に支持されたわけではないことを肝に銘じる必要があるだろう。共和党は、レイムダック(死に体)化したオバマ政権や少数派に転じた民主党議員とも妥協点を探り、「何もしない議会」を「結果を出す議会」へと変えることが期待されよう。
あまり上手く機能していない医療制度改革(通称オバマケア)のオーバーホール、TPP交渉、来春に再び期限が来るデットシーリング問題を絡めた予算交渉、中東やウクライナ情勢への関与、移民法改正等々、現在見えているだけでも多くの課題がある中で、共和党の出方が大いに注目されよう。
慢心した共和党がオバマ政権との対決姿勢を強めて、政治の停滞や経済の混乱を招くようであれば、2年後の大統領選挙の結果は今回と真逆になるかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。