記憶に新しいところでは、『花子とアン』(NHK)の木場朝市役。ヒロイン・花子に恋をしながらも、温かく見守る幼なじみを好演し、スピンオフ『朝市の嫁さん』が作られるほどの人気を集めた窪田正孝。さらに、現在は『Nのために』(TBS)に準主役で出演。ヒロインの榮倉奈々と息の合った演技を見せている。

すっかり全国区になった窪田だが、実は26歳にして映像作品への出演は50作超。全テレビ局を制覇するなど、テレビマンに愛され続けてきた若き名優なのだ。ここでは「今最も旬な俳優」窪田正孝の魅力を探っていく。

きっかけは2009年の難役連発

さまざまな作品で引っ張りだこの窪田正孝

まずは主な出演ドラマを振り返っていこう。神奈川県の工業高校に通い、作業着で整備士を目指していたころ、母親の勧めでオーディションを受けて見事合格。デビューは高校2年生の17歳だった。

ドラマ初出演は、2006年の深夜ドラマ『チェケラッチョ!! in TOKYO』(フジ)。いきなりの主演だったが、たどたどしいラップ高校生を木村了らと爽やかに演じる。2008年には『ケータイ捜査官7』(テレ東)で再び主演。"歩く携帯電話"がバディという異色作は、1年間続く隠れた人気ドラマだった。

2009年には初の時代劇となる『浪花の華』(NHK)でまたも主演。一方、『ママは昔パパだった』(WOWOW)では「性同一性障害に悩み、性適合手術を受ける」という難役をこなした。さらに驚かされたのは同年の昼ドラ『X’masの奇蹟』(フジ)。「35歳の男性が乗り移った大学生」役で、ひと回り以上年上の俳優たちと大人のラブストーリーを演じ切った。今、思えばここでの好演連発が、現在のブレイクにつながったような気がする。

「連続通り魔」役で堺雅人と対決

2010年には朝ドラ『ゲゲゲの女房』(NHK)にレギュラー出演したが、インパクトがあったのはむしろ単発出演だった『ジョーカー 許されざる捜査官』(フジ)。11人を次々に刺し殺す通り魔役を演じ、今をときめく堺雅人との対決は背筋がゾクッとするほどの怖さがあった。

次に注目したいのは2012年の『リーガル・ハイ』(フジ)で演じたパンクロッカー・ジャンゴジャンゴ東久留米。デスメイク&赤緑ヘアの強烈なキャラ作りで、視聴者の意表を突いた。さらに同年、大河ドラマ『平清盛』で嫡男・平重盛を堂々と演じつつ、『大奥~誕生[有功・家光篇]』(TBS)では女遊びの激しい男版の側室役と、時代劇で真逆のキャラを演じ分ける。このあたりから、演技力の振り幅が明らかに広がりはじめた。

第2の転機となったのは、人気作への出演ラッシュを果たした2013年。『最高の離婚』(フジ)では尾野真千子にホレる23歳のフリーター役、『SUMMER NUDE』(フジ)では戸田恵梨香への片想いを実らせる文学青年役、『リミット』(テレ東)では優柔不断な教師役と、"フツーの人"を次々に演じる。しかし、単発では2時間ドラマ『淋しい狩人』(フジ)、『刑事のまなざし』(TBS)で犯人役として連続出演。恨みが募った鬼気迫る演技で、圧倒的な存在感を示した。

そして、『花子とアン』でブレイクした今年も、『ST 赤と白の捜査ファイル』(日テレ)『Nのために』(TBS)にレギュラー出演している。加えて、窪田らしかったのは深夜ドラマ『ウレロ☆未体験少女』(テレ東)への出演。「(実年齢57歳の)秋野暢子と結婚するイケメン俳優」として振り切った熱演コメディをこなし、さらなる引き出しを見せつけた。

メインで優男、ゲストで凶悪犯

窪田の魅力と言えば、やはり目の演技を挙げたい。いまだ中学生もこなす童顔ながら、優しいまなざし、鋭い眼光、物憂げな視線、完全にイッちゃっている目など、その表現力はセリフ以上に雄弁だ。もちろん、目以外の表情や、声の発し方、仕草や振る舞いなど、全身に神経を行き渡らせて演じているため、知らぬ間に引き込まれてしまう。演じるキャラによって、肩入れして応援したくなったり、怖がって嫌悪感を抱いたり、感情移入せずにはいられない。

振り返れば窪田のここ数年間は、「メインキャストとしてしっかり存在感を見せつつ、ゲスト出演や単発ドラマで強烈なインパクトを残す」という立ち位置だった。もう少し掘り下げると、メインキャストでは、『SUMMER NUDE』桐畑光や『花子とアン』木場朝市のような優男を演じ、ゲスト出演では凶悪犯や変人を演じることが多い。ふつうはこれほど出演作が続くと飽きられはじめるのだが、窪田には全くそれがないのだ。

刑事と犯人、学生と先生、時代劇の正義と悪など、真逆の役柄を同じクールで演じ分けることもあり、まさに変幻自在。事務所の作品選びが上手く、窪田もそれに応える演技力があるため、業界内の評価は上がる一方なのだ。とりわけ今、日本のドラマ業界で犯人役をやらせたら、彼の右に出る者はいないだろう。

制作側から見たら、「できればメインキャストで出て欲しいけど、忙しくて難しいのならゲスト出演だけでもいい」という存在。朝ドラに2度、大河ドラマ、ドラマ10など、演技力優先でキャスティングするNHKのドラマ枠を総ナメしていることでもそれが分かる。

偉大な先輩に追いつけ追い越せ

窪田正孝には、2009年のホップ、2012年のステップ、2103年のジャンプを経ても、まだまだ伸びしろがありそうな底知れないものを感じる。「次世代のカメレオン俳優」という声もあるが、そんな既存の枠では収まらない器のような気もする。

窪田正孝の所属事務所は、演技派俳優が多いことで有名だ。内野聖陽や椎名桔平のような窪田と似た特徴を持つ大先輩がいるほか、少し上の年代にも山田孝之という格好のお手本がいる。だからこそ、彼はどの撮影現場でも、ひたむきに役作りをする姿が目撃されているのだろう。私はまだ窪田正孝の演技を見て「ヘタ」と言う人に会ったことがない。分かりやすさと奥の深さを持ち合わせる窪田は、誰がどう見てもいい俳優なのだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。