女優・安達祐実が、20年ぶりとなる主演映画『花宵道中』(11月8日公開)に挑んだ。遊女としての運命に翻弄される役どころで、過激な濡れ場にも初のヌードで熱演。1994年のドラマ『家なき子』で天才子役として名を馳せながらも、世間のイメージとのギャップに苦しみながら成長した安達にとって、本作は女優30周年を飾る上でも絶好の作品だった。
「過激なイメージで衝撃を与えよう」そんな攻めの姿勢が生まれるきっかけは今から5~6年前。自ら所属事務所のスタッフに呼びかけて開いた会議だった。葛藤や苦悩の末に、彼女がとった行動と決断とは? そして、そんな今だからこそ心の底から感謝を伝えたい相手とは? 安達祐実という1人の女性の心髄に触れる。
――メインビジュアルにも使われている花魁道中のシーン。主人公のイメージの中にある姿を表現しているわけですが、ご自身でその姿を見た時にはどのように感じましたか。
着飾った遊女や花魁には憧れもあったので、実際に着た時にはうれしかったんですが、想像以上に重くて。これを長時間着るのは無理だなと思いました。花魁道中のシーンは、現実からイメージの世界へと急に話が展開してしまうので、台本を読んだ時は作品の中で違和感があるシーンにならないかと心配していたんですけど、完成した作品を観てとても重要なシーンだったと気づきました。
――ラストに関しては多くは語れませんが、妙に納得してしまいました。
人生の選択として違う方法もあったんじゃないかと思う一方で、豊島(圭介)監督と気をつけようと話し合っていたのはこの作品が「悲恋の物語」にならないこと。彼女にとってはこの人生が最良だったんだと、そう思える物語にしようと話し合っていたので、その点では成功だったんじゃないかなと思います。
――過激な描写が重要なシーンになる映画ですが、出演にためらいは?
すぐに「やります!」という感じでした。悩むこともなく(笑)。年齢を重ねるにつれて脱ぐシーンがある映画のお話を徐々にいただくようにはなっていたんですが、自分の中で心の準備ができず、「これなら」と思えるような作品にも出会えていませんでした。ストーリーの中で必然であることと、心の準備ができていればお受けしようと、事務所の人と数年前から話していて。今回の作品でいえば、そういうシーンがあることで物語として映画として良い作品になりそうだと感じて、迷いなく決心しました。
――「安達祐実」という人物のイメージに関して世間とのギャップを感じたことも本作に出演するきっかけだと聞きました。そのギャップはいつ頃から感じはじめたのでしょうか。
10代後半…高校生くらいの頃からだと思います。いただく役も、等身大である高校生よりも若めが多くて。20代になるとさらにそのイメージとの開きが大きくなっていきました。皆さんの私に対するイメージは子役時代のまま。でも、自分は成長しているという状況に悩んでいました。
――ただ、現実としてそういう役を求められれば受けざるを得ない。今回のような役を待ち望んでいたということでしょうか。
もっと早くに冒険するべきだったのかもしれないとも思います。そうしていたら、この年齢でこれほど闘わなくて済んだんじゃないかと。
――そういうチャンスはなかったんですか?
やりたい仕事や「安達祐実として進むべき道とは」など、事務所で会議を開いて自分の考えを発言するようになったのは、ここ5~6年くらいなんです。それまでのことに関しては事務所にお任せをしていて、事務所に守ってもらっている状態でした。守りすぎて攻めが足りなかったなと思うようになったのは、離婚をしたあたりから。何よりも結婚したことが私にとって大きなことでした。出産の時には半年くらいお休みした時期があったんですけど、半年休んだのも人生で初めて。2歳からずっと働いているので(笑)。
――最長のお休みは?
家族で海外旅行に行った時…10日ぐらいだと思います。仕事が1カ月に2本しかないような時期もありましたけど、休みたくて休んでいたわけではないので…。休みたくないのに休みがあるとストレスにしかならないですよね(笑)。
――納得です(笑)。5~6年前からの会議というのは?
私が属している班の方々に「お時間いただけますか」とお願いをして集まってもらっています。
――自らその会議を開きたいと。
そうですね。
――驚かれませんでしたか?
何を言われるんだろうと警戒されていたと思います(笑)。でも、私は仕事を楽しみたいですし、情熱的でいたいと思っているので、スタッフの皆さんの情熱のほどを確かめる意味もありました。今後の安達祐実をどうしていこうと思っているのかを率直に聞きたかったんです。自分が置かれている立場をきちんと認識したくて。役をとって来る上で何が障害になっているのか、営業に行った先でどんなことで断られることがあるのか。私が傷ついてもいいから、全部教えてほしいとお願いしました。
――そうしようと決断したのは、誰かの助言? それとも他になにかきっかけが。
共演した方のお話を聞く中で、この世界で生きている人はどんな立場の人でも仕事に関して悩んでいるんだというのは感じていたんですが、特に誰かの影響でそういう行動に出たというわけではありません。何よりも、二十代中盤ぐらいで切羽詰まっていた自分がそうさせたんだと思います。
でも、そのかいもあって事務所の方と目指す方向がはっきりしてきて、攻めた役をやっていけるようになりました。今回の役はその最たるもので、過激なイメージで衝撃を与えようという狙いがあったんですが、伝えるべきメッセージがきちんとある作品じゃないといけないと思っていたので、『花宵道中』はぴったりでした。