オランダせんべい(税込140円)

「日本屈指の米どころで採れた米で作ったせんべい」と聞くと、どんなネーミングとパッケージを想像するだろう? おそらく大多数の人が思い浮かべるのは、純和風な名前を持った、昔懐かしいデザインの一品であろう。ところが、「庄内のソウルフード」とも評されるせんべいは勝手が違う。なんせ商品名にヨーロッパの国名を冠しているほどなのだから。

米どころならではの特産品を作りたい!

商品の名は「オランダせんべい」。山形県民の誰もが親しみを感じる定番商品だ。その歴史は古く、誕生したのは昭和37年(1962)のこと。当時、庄内で米問屋を営んでいたという、同せんべい製造元・酒田米菓の創業者が、「この地ならではの特産品を作りたい」との想いを胸に、地元ブランド米である庄内米のみを使って商品開発に挑んだのがきっかけだ。

「大地の恵みをいっぱいに蓄えておいしく育った米だからこそ作れる商品」を追求する過程において、まずは当時の主流であった厚焼き醤油味のせんべいから離れ、特殊な技術を用いて極薄に仕上げる製法を開発。さらに、「今後は食に関しても欧米化が進むだろう」との予測のもと、当時、生食で使われ始めたばかりのサラダ油を使い、あっさりとした塩味の洋風せんべいに仕上げたという。

米のおいしさを最大限引き出す味付け

「オランダ」は国名にあらず

それにしても、原材料や製法とオランダは一切無縁に思えるのだが、一体どういうわけだろう? と思っていたら、なんと商品名はダジャレに由来していることが判明。

庄内地方の方言で「私たち」のことを「おらだ」と言うため、「私たちの誇る庄内平野で採れた米で作った、私たちのためのせんべい」は「おらだの米で作った、おらだのせんべい」となるわけだが、ダジャレを楽しむ心を持って「おらだのせんべい」を洋風に発音した結果、「オランダせんべい」と命名することになったのだ。

命名シーンを想像するだけでも愉快だが、さらにそのイメージを分かりやすく表現すべく、オランダの象徴・風車や、現地の民族衣装をまとったキャラクターをデザインしたパッケージまで生み出しているのだから恐れ入る。

オランダせんべい(ギフト箱=個包装2枚入り×24袋/税込864円)の箱は、食べ終わった後、小物入れにするのもおすすめ

大胆不敵な戦略を展開したこともあり、一躍、支持を得た同商品は、現在でも東北エリア全域で愛され続けている。ちなみに、素材や製法、デザインは、発売当初からほとんど変わっていないという。

ファンがプレゼントしてくれたという、オランダせんべいマスコットの「オランダちゃん」

シンプルな材料ゆえに素材を生かす

せんべいは庄内平野で育った良質な米の中でも「飯米」といわれる、普段の食卓に並ぶ米を主原料に、天然塩と植物油のみで味付けをし、化学調味料は一切使用していない。それだけでなく、せんべい生地を作る前日に精米することで、米の風味を最大限に引き出すことにまで気を配っているのがミソである。

加えて、オランダせんべいを知りつくした熟練の職人の技も不可欠。微妙な気候の変化やそのときどきの米の状態に合わせて、機会の設定を調整することで、すぐれた品質を保っているのだとか。

全長約450mの工場内で焼き上がっていくせんべいたち

工程ラインは全長約750m! スタッフが真剣な表情で作業中

今すぐ食べたい人は通販を

と、ここまで読んで、そんなこだわり満載のせんべいはぜひとも全国で販売してほしいと思った人は多いだろう。しかしそうしないのは、名前の由来でもある「おらだのせんべい」のコンセプトを大切にしているから。

しかしご安心を。同社では通販も行っているほか、東京都内の山形県アンテナショップ「おいしい山形プラザ」などでも購入は可能。また、百貨店やスーパーの「東北フェア」などにも登場する機会が多いのだとか。手に入れた暁にはきっと、東北の人たちが胸を張って「私たちのせんべい」だと言い切る理由がよく分かるに違いない。

※記事中の情報・価格は2014年10月取材時のもの