電力会社が10Kwを超える大規模再生可能エネルギー(メガソーラーなど)の新規買い取り申請への回答を一時保留している問題が波紋を広げている。電力会社の買い取りを前提に土地を購入して発電事業の準備を進めてきた業者に困惑が広がっている。

現在の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)のもとでは、電力会社は買い取りを拒否することはできないが、電力会社は、経済産業省に「今のままでは買い取りができなくなる」と制度変更の交渉を行なっている。経済産業省も、制度変更の検討を始めている。

なぜ、このような問題が生じるのか、背景を知っておく必要がある。

  1. 自然エネルギーの活用を拡大する

  2. 電気料金の高騰で国民生活へ悪影響が及ぶのを避ける

  3. 国民がいつでもどこでも安定的に高品質の電力供給を受けられる体制を維持する

どれも大切なことで、決して疎かにしてはならない。ただし、この3つをすべて電力会社の責任で完璧に行うことは困難になってきている。何を優先し何を後回しにするか判断すべき時が来ている。

電気料金は既に一部で値上がりが始まり、国民生活に影響を及ぼしている。値上がりの大部分は、燃料価格変動や原発停止によるものである。再生可能エネルギーの固定価格買い取りによる電力会社の負担も、一般家庭へ「再生可能エネルギー買い取り促進賦課金」として転嫁されているが、今のところ、賦課金転嫁への大きな反対運動は起こっていない。ただし将来、賦課金がどんどん大きくなっていくと国民から反発が出ることが、ドイツの事例などからわかっている。

厳密にいうと、再生可能エネルギー買い取りにかかる負担を電力会社がすべて一般家庭へ転嫁しているとは言えない。電力各社は、担当地域で高品質の電力をいつでもどこでも自由に使えるように供給する義務を負っている。出力が不安定な太陽光・風力などの電力受け入れを拡大しながら、電力の安定供給を維持するためには、電力会社に追加で投資負担が生じる。

追加負担は、

  1. 周波数変動や停電の問題が起こらないようにするための送配電ネットワーク強化

  2. 再生可能エネルギーの出力変動に応じて出力を調整する「調整電力(ガス火力発電や揚水発電)」への投資

  3. 他電力会社との電力融通を増強するためのネットワーク投資

などである。いずれも将来必要になることだが、すべてを短期間にやっていこうとすると、電力会社の財務に問題が生じ、電力料金への負担転嫁が大きくなる問題が起こる。

再生可能エネルギーへの投資、2つの提案

持続可能な地球環境を維持するために、再生可能エネルギーへの投資を拡大方針は貫く必要がある。ただし、そのやり方には一段と工夫が必要になってきている。筆者には、具体的に2つ提案がある。

1つは、地熱発電への投資を拡大すること。地熱発電は出力が一定で高品質の電力が得られるので、ベース電源として価値が高い。環境への影響に十分な配慮が必要だが、太陽光や風力ばかりでなく、地熱を重視する考えが必要である。

2つ目は、サハリン(ロシア)から海底ガス・パイプラインをひいて、安価なガスを日本に導入することだ。ガス火力は、再生エネルギー導入拡大に必要な調整電源として重要である。LNGに加工しないで生ガスのまま購入できれば、日本でのガス調達価格は大幅に低下する。サハリンからのパイプライン敷設はロシアからたびたび提案されているものを日本が断ってきた過去がある。北海道電力の大幅料金引き上げが社会問題になりつつあるが、サハリンから安価なガスを導入すれば、北海道電力のみならず、日本全体のエネルギー調達価格低下に寄与する。

米国と同盟関係にあるからロシアからパイプラインは引けないと主張する人がいるが、それは米国との交渉の仕方次第である。日本は米国と敵対するイランから原油を購入しているが、それを米国は黙認している。欧州諸国も、ロシアからパイプライン経由でガスを購入している。エネルギー調達価格の高騰は国民生活に直結するだけに、外交努力によってサハリンガスの導入を実現し、現在日本が購入しているきわめて高価なLNGガスの代替とすべきである。

(※画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。