2014年は映画『アナと雪の女王』、朝ドラ『花子とアン』、ジブリ映画『思い出のマーニー』など、"ダブルヒロイン"ものがヒット連発。「最低でもどちらか一人に共感できる」「絆や対立図式が分かりやすい」などの意図がハマり、幅広い層の女性を虜にした。
そんな一年を締めくくるべく、秋ドラマにも『ディア・シスター』(フジテレビ系 毎週木曜22:00~)、『女はそれを許さない』(TBS系 毎週火曜22:00~)、『さよなら私』(NHK 火曜22:00~)と3作のダブルヒロインものがラインナップされた。なかでも注目を集めているのは、石原さとみと松下奈緒がダブルヒロインをつとめる『ディア・シスター』だ。
共感よりも、スカッと&ツッコミ
1つ目の焦点は、同じ枠だった『昼顔』のように女性からの共感を得られるか? 石原、松下ともに朝ドラ出身であり、女性からの好感度は上々。朝ドラ後、小悪魔キャラを手に入れた石原は"奔放な妹"を、朝ドラ後もきまじめキャラを続ける松下は"しっかり者の姉"という順当なキャスティングと図式。ハマリ役といえばそうなのだが、意外性がないのは気がかりだ。
何より押し出しているのは、キャラ演出のシンプルさ。松下演じる・葉月は、それほど潔癖でも几帳面でもなく、結婚を夢見る普通の人。一方の石原演じる美咲は、舌ったらずのしゃべり方で、不敵に笑い、ふてくされ、暴言を吐くなどひたすら"嫌な女"。さらに、キャミソール一枚での寝姿や入浴シーン、わざわざバナナを食べるシーンを入れるなど、エロの役割を引き受けている。
"普通"と"嫌な女"の図式はダブルヒロインものの定番であり、『花子とアン』『アナと雪の女王』とも似ている。しかし、「実は嫌な人」「実はいい人」という側面がなく、ここまで一面的な描写だと「あなたはどっち派?」という会話が成立しない。この点で『ディア・シスター』は、共感や「あるある」ではなく、姉妹のコントラストを見て楽しむドラマではないかと感じる。
つまり、「何でもズバズバ言う」石原でスカッとして、「怒りながらも結局許してしまう」松下に「それでいいのかよ!」とツッコミを入れて楽しむドラマなのかもしれない。
女性誌を思わせるネタがてんこ盛り
2つ目の焦点は、女性誌からネタを集めたようなシーン。検査薬で妊娠発覚、サプライズパーティーでのプロポーズ、ブライダルチェック、アロマキャンドルを焚いた風呂、親友とエステサロンでおしゃべり、男友達と抱き合って添い寝、子ども依存が激しいモンスターマザー、「もう何年セックスしていないか知ってる?」のセリフなど、女性なら「ちょっと気になる」ネタがてんこ盛りだった。
さらに、姉・葉月は「趣味につき合い、何でも相談に乗ってくれる親友(森カンナ)がいて」「恋人がいながら他のイケメン(平山浩之)に憧れられる」、妹・美咲は「弟タイプの同級生(岩田剛典)がずっと好きでいてくれる」「その同級生が友人関係を保つためにゲイを装ってくれる」など、女性の理想を具現化した設定も用意。岩田剛典と平岡祐太の裸シーンや、LINEを思わせる携帯電話でのやり取りも含めて、清々しさを感じるほど女性目線を徹底していた。
ストーリーに目を向けてみると、初回は姉・葉月の婚約破棄を描く中で、「妹・美咲と自分の婚約者・吉村(平岡祐太)をベッドで目撃」というショッキングな展開があった。"姉妹の絆"という地味なテーマだけに、次回以降も毎週「エ~ッ!」と言わせ、口コミを誘うような展開を入れてくるだろう。
脚本・演出・プロデュースは、「ちょっとエッチなラブストーリー」で話題を集めた2013年の『ラスト シンデレラ』と同じ。それだけに難しいことはやらず、奇をてらうことなく、「きっとこうなるだろう」「できたらこうなってほしい」と思っている方向に転がっていくのではないか。
未来日記と死ぬまでにしたいこと
今後に向けて気になったのは、妹・美咲が書いていた"未来日記"(鍵付き)のような手帳。「お姉ちゃんと彼を別れさせる」「お姉ちゃんの新しい彼を見つける」の先には、どんな予言が書かれているのか。
また、美咲が再三、口にしていた『死ぬまでにしたい10のこと』もキーワードになるだろう。まさか、「病気をおして出産した妹・美咲が死んでしまい、代わりに姉・葉月が子どもを育てる」なんてどこかで見た展開にならなければいいのだが……。
全体の印象としては、今年流行ったダブルヒロインものとは明らかに異なる。それだけに視聴率や評判は、『花子とアン』『アナと雪の女王』より厳しいかもしれない。しかし、どこをどう切り取っても女性向けであることは明白。その証拠に、男性は悪いヤツか、気の弱いヤツばかりであり、そこは今年のブレイク作と共通している。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。