世界景気の減速懸念が一段と強まってきた。そして、米国景気もそのあおりを受けて減速するとの見方が、利上げ観測の後退や株安、ドル安をもたらしている。
米国経済の輸出依存度は低い
幸いにして、米国経済は輸出依存度が低く、世界景気、とくに低迷が目立つユーロ圏景気から直接受ける影響は限定的だろう。米国のGDPに対する輸出の比率は2013年に13.5%だった。同じ時期に、この比率は日本16.2%、ユーロ圏46.0%、豪州20.5%などだ。それらの国に比べて、米国経済は世界景気減速の影響を受けにくい構造となっている。
また、米国の輸出のうち、4割近くが隣接するカナダ、メキシコ向けであり、かなりの部分は自動車など現地での加工・組立を経て再び米国に戻ってくるものと考えられる。欧州向けは全体の21.0%であり、ユーロ圏向けは12.9%に過ぎない。
ちなみに、豪州の輸出のうち、約4割が中国向け(鉄鉱石が中心)だ。つまり、豪州の景気が中国の影響を受けるほどには、米国の景気がユーロ圏の影響を受けることはないと言えそうだ。
ドル実効レートは中長期的な平均を下回る
これまでのドル高が輸出全般に与える悪影響も、懸念され始めている。ただ、ドルの実質実効レート(物価要因を除き、貿易ウェイトで加重平均した為替レート)は、2011年7月につけた史上最安値から16%強上昇しているものの、過去40年の平均を下回っている。ドル実質実効レートの大幅な上昇をみた1980年代前半や2000年代初頭のように、ドル高が輸出の障害となるような状況ではなさそうだ。
7-9月期の米成長率は3%程度
他方、足もとまでは「米国景気は堅調」との判断を変えるほどの材料はそろっていない。アトランタ連銀のGDPNow(短期経済予測モデル)によると、「弱かった」9月の小売売上高までのデータを反映させた上で、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率2.9%の予想だ。1-3月期が同4.6%だったので、2期連続で高い経済成長が見込まれている。
米国企業の全般的な景況感をみるために、「ISM統合景況指数」を作成した。これはISM製造業景況指数とISM非製造業景況指数を、両部門の雇用者数のウェイトで加重平均したものだ。この「ISM統合景況指数」は、年初に寒波の影響で落ち込んだ後に顕著に上昇しており、9月時点で高水準を維持している。
正念場を迎えつつある米国景気!?
もっとも、世界景気がここから大きく落ち込むようであれば、米国だけが経済の繁栄を謳歌するのは困難だろう。そして、なにより米株の下落が続くようであれば、「逆資産効果」が景気にブレーキをかける可能性も高まってくる。果たして、米国経済は、世界のけん引車とは言わないまでも、アンカー役を果たすことができるのか。それとも、世界的な景気減速の波に飲み込まれてしまうのか。正念場を迎えつつあるのかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。