テレビやインターネット上、そして動物好きや鳥好きの間で「動かない鳥」との愛称で知られ、一部で人気が高まっているハシビロコウ。アフリカ中東部などに分布し、体長は1.2メートルほど。体重は5キロ程度で、羽を広げると2メートルにもなる比較的大きな鳥だ。
首都圏では上野動物園や千葉市動物公園などで会うことができるが、一体どんな生活をしているのだろうか。そして本当に「動かない」のだろうか。実際に会いに行ってみた。
上野動物園のハシビロコウの展示エリアは、西園・池之端門から入って比較的すぐの場所にある。広い柵の中に草木が生い茂っていて、屋根部分が緑の網に覆われているので見つかりやすいはずだ。
さっそく柵の中をのぞいてみると…。少し怖そうな目つきでこちらをじっと見つめている1羽が見つかった。「ハシビロコウ」の名前は「クチバシが広く大きいコウノトリ」という由来の通り、大きなクチバシと灰色の羽、細長い足が特徴的だ。
他にも数羽のハシビロコウがいたので、しばらくの間じっと観察してみた。確かに動きはのんびりゆったりとしていて、他の小さな鳥のようにせわしなく動き回ったりはしない。ただ、全く動かないというわけではない。同じ体勢で数十秒から数分ほどそのままの時もあるが、ゆっくりと視線や体の向きを変えたり、細長い足で歩いて移動したり、時おり大きなクチバシで羽繕いをしたりもしている。
解説ボードにも記載されていたが、ハシビロコウがあまり動かないのはその生息環境によるところが大きいようだ。野生種はアフリカの沼地で暮らし、主に魚を捕らえて食べている。その際、動き回って水を波立たせたりすると魚が逃げてしまうため、じっと待ち伏せして隙をうかがい、大きなクチバシで素早く捕まえて丸飲みするという方法を取っている。待ち伏せ時間は数十分から数時間にも及ぶことがあり、そんな所から「動かない鳥」の愛称がついたのだろう。細く長い足や爪も、その際に体が水に濡れたり泥に沈んだりしないよう役立っている。
上野動物園には全部で5羽のハシビロコウがいて、オスが3羽、メスが2羽。それぞれクチバシの模様や足につけられたリングの色で識別することができる。ただ、基本的に単独行動を好むようで、ナワバリ意識もあるのだろうか、この日もエリア内でそれぞれがバラバラに離れて過ごしていた。ほとんど鳴き声をあげることもないが、翼を広げてふわっと飛んでみせたり、クラッタリングと呼ばれるクチバシを開閉して音を出す行動をとったりすることがあるそう。
気が付くと柵のまわりではカメラを構えた来園者たちが多く集まってきていた。一見怖そうにも見えてユーモラスな姿に人気も高いようで、ハシビロコウが柵の近くまでやってくると、シャッターを切りながら「かっこいい」「すごい」などと声があがる。ただ、大きなクチバシで網ごしに噛んだりつついたりしてくることもあり、「見る時は近づきすぎずにそっと観察してあげてください」と飼育員さん。
そんなハシビロコウだが、開発などにより絶滅のおそれがある動物として保護の対象になっている。しかし飼育下での人の手による繁殖が難しいという現状もあり、世界的にもなかなか数が増えないのだそう。
格好良くてユーモラスなハシビロコウ。ぜひ一度、会いに行ってみてはいかがだろうか。
上野動物園のアクセスはJR上野駅・公園口から徒歩5分、または京成電鉄上野駅・正面口などから。開園時間は9時30分~17時(入園は16時まで)。月曜休園(祝日や振替休日の場合は開園、翌日が休園)。入園料は一般600円、65歳以上300円、中学生200円(小学生以下と都内在住・在学の中学生は無料)。