「突然キリキリと胃が痛んだり、もたれたりする」「胸やけしてげっぷが出る」などの症状が続くも、内視鏡検査をしたら「異常なし」と言われたことはないだろうか。原因不明のこれらの症状は、ストレスによって生じている可能性がある。
強いストレスや緊張が胃に与える悪影響とそのメカニズムについて、桐和会グループの精神科医・波多野良二先生に話を伺った。
事例
介護関係の職場に勤務するAさん(30代女性)は、仕事の仕方の方針転換を強引に進める新しい上司としばしば対立し、きつい言葉を浴びせられることもあった。ある日、突然強い胃の痛みを感じ、胃潰瘍が疑われて内視鏡検査をしたところ、胃の粘膜はきれいで異常はなしという診断だった。「(原因は)精神的なものかもしれない」と医師に言われ、心療内科を受診。抗うつ剤の一種で、ストレスによる胃の痛みなどに効く薬を処方された。幸い、症状は良くなって数日後には勤務できるようになった。
「このAさんの場合は激しい胃痛でしたが、そのほかにも胃もたれやおなかの膨満感、胸やけなど、なんらかの胃の不調を抱えて内視鏡検査をしたけれど、胃潰瘍などの異常はなかったというケースは多くあります。その後も不調が続く場合には、職場などで強いストレスを感じていないでしょうか。こうした場合、可能であれば職場の理解を得てしばらく仕事を休む、休んでも改善しないのであれば配置転換を願い出る(環境調整)とよいでしょう。環境調整が難しい場合や、環境調整でも症状が良くならない場合、一般的な胃薬で良くならない場合は心療内科(精神科)を受診して、適切な治療を受けていただきたいと思います」。
自律神経のバランスが崩れるのが原因
人は強いストレスや緊張を感じると、自律神経系に悪影響が出ることが多いという。
「自律神経は心臓や血管、筋肉などの働きを、自分の意志とは関係なくコントロールする神経です。緊張時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経に分かれ、シーソーのように交互に働きます。バランスが大切で、どちらが優位だとよいというわけではありません。この神経を調整しているのは、『ノルアドレナリン』や『アセチルコリン』などの神経伝達物質です。強いストレスがかかると、そのバランスがくずれてしまいます」。
自律神経のバランスがストレスで崩れ、体のデリケートなところに症状として現れるというわけだ。
胃もたれと胸やけのメカニズム
ストレスがきっかけとなる胃の症状は、「ぜん動運動」の不調や胃の粘膜を守る「防御因子」の低下などが原因であるという。
強いストレスや緊張によって、交感神経が副交感神経よりも優位になると、心臓や骨格筋が強く働く一方で消化器は動きが悪くなり、流れる血液の量も減る。胃が内容物を消化し、十二指腸へと送り出す「ぜん動運動」が低下し、胃がもたれたりおなかに空気がたまって張る感じがしたりする。胃の粘膜に血液がいきわたらないため、胃の粘膜を保護する機能も低下して胃が痛くなる。
また副交感神経が強く働きすぎる場合は、胃酸が多く出て胸やけがしたり、胃が動きすぎて痛くなったりすることがある。
ストレスが胃の不調の原因だった場合、胃酸を抑える薬や胃の粘膜を保護する薬を飲むだけではなかなか治らない。すぐに環境を変えるのは難しくても、スポーツや趣味など自分なりのストレス発散法を持つだけで、気分も違ってくるはず。日ごろストレスをためている人ほど、自分の時間を大切にして自律神経のバランスをとることを心がけてほしい。
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記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。