金曜深夜に放送されていた『マツコの知らない世界』(TBS系毎週火曜21:00~)が1年ぶりに帰ってきた。しかも火曜21時というゴールデンタイムであることに驚きを隠せない。
同番組の主な内容は、マツコ・デラックスと、ある分野に情熱を燃やす専門家のガチトーク。業界人やテレビ通の心をガッチリつかんだ名番組である一方、深夜ならではの自由さや深掘りが売りだっただけに、「ゴールデン進出で変わってしまうのではないか?」という不安もささやかれていた。
しかし14日の初回放送では、専門家がマツコにプレゼンするスタイルや、DVDのチャプター風にした番組説明なども全て健在。深夜時代と全く変わらぬ世界観をキープしていた。
林修の暴露を誘ったマツコの自然体
この番組に対するマツコのスタンスは、"考えられたツッコミや毒舌"というよりも、"自然体の言いたい放題"に近い。ゴールデン初回の"予備校の世界"で登場した林修に対しても、「何かエロイ。私には分かるのよ」を連発。本題と全く関係ないイジリ方を続けて、林に「そこまで見抜かれたんで……これまで謙虚なキャラ作ってきて、今まで絶対言わなかった本音を言いますけど、賢いイイ女に勝率10割です」と暴露させてしまった。
続く"フリーズドライの世界"では、「1万以上のフリーズドライ食品を食べた開発者」島村雅人氏が登場。「史上最高の出来」というカニすき一人鍋を食べたマツコは、「すご~い」と感動する。さらに、真顔で「1人で火に鍋をかけて作ると、悲しいときがあるのよね。これだと『1人で鍋作ってる』って思わなくてすむ」とコメント。毒だけでない、このような哀しさもマツコの魅力だ。ちなみに、島村氏が選ぶフリーズドライBEST3の3位は親子丼、2位はクリームシチュー、1位は野菜炒めのみそ汁だった。
予定調和を嫌い、専門家に従わない
最後の"美味プリンの世界"では、「1万800種類以上のプリンを食べた」プリンコンサルタント・濱口竜平氏が登場。日ごろプリンの材料選びや作り方、販売方法をアドバイスしているという濱口氏にマツコは、「スゴいイヤらしい仕事」「ザワザワする感じ」と失礼な本音を漏らす。オススメの"プリン専用スプーン"を紹介されても、『プッチンプリン』を丸飲みするマツコ。「予定調和を嫌い、決して安易に従わない」姿勢は人気の秘けつだろう。
その後、プリンの歴史を振り返り、コンビニプリンBEST3を発表し、濱口氏お手製の究極プリンを試食して番組は終わった。この流れでマツコのコメントは、「味はおいしいのよ。でもやわらかすぎるんだよね」ばかり。もはや主観のゴリ押しに近いのだが、それがむしろ新鮮で面白く見えるのは、ゴールデンタイムに"安全運転の番組"が多いからかもしれない。
初回で終始目立っていたのは、マツコの真骨頂である"お下品な本気食い"。「ゴールデンタイムだからって、私は何も変えないわよ」というマツコと、「その姿をド正面の超アップで映す」スタッフの意気込みがヒシヒシと感じられた。
「深さ」「バカさ」はあの名番組に匹敵
今後はどんな世界が紹介されるのだろうか。深夜時代に取り上げられたのは、主に2ジャンル。1つ目が、缶詰めの世界、インスタントラーメンの世界、駅そばの世界、レトルトカレーの世界、コンビニアイスの世界、ナポリタンの世界など、視聴者にとって身近な食べ物。2つ目が、自動販売機の世界、ボディビルの世界、ダムの世界、耳かきの世界、金魚の世界、ディアゴスティーニの世界、佐川急便の世界、刑務所の世界、傭兵の世界など、何となくしか知らないニッチなもの。どちらも、「今もう一度見たい」と思うようなものばかりだ。
他の番組でたとえるなら、その深さは『タモリ倶楽部』級であり、やり取りのバカバカしさは『アメトーーク!』級。『アウト×デラックス』を見ても分かるように、マツコはとにかく変人イジリが上手い。いいように泳がせておいてピシャリ、「いい人だと思うんだけど」と言いながらバッサリ。もしかしたら『マツコの知らない世界』は、「視聴者がうっすら思っていることをすぐにコメント化できる」マツコの実力が最も発揮される番組なのかもしれない。そもそも他のタレントを入れず1vs1のサシトークにしたのはそういう意図だろうから、他の番組より輝いて見えるのも当たり前なのだ。
次週火曜は、"植物油の世界"と"天気予報の世界"。情熱あふれるゲストvsクールなマツコのコントラストをぜひ楽しんでみて欲しい。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。