愛猫に長生きしてもらいたい、いつまでも健康でいて欲しい、それは全ての飼い主さんの希望でしょう。猫は病気が少ないといわれる反面、シャイでストレスを受けやすい動物です。ストレスがない生活を送ることが長生きの秘訣です。
猫部門の長寿ギネス記録をもっているクリームパフちゃんと長寿記録第2位のグランパちゃんが同じ家で飼われていた猫であることから、環境が長生きに大きく関係していることがわかります。ここでは猫を長生きさせるコツについて解説していきます。
室内飼いのすすめ
室内か出入り自由か、それは猫の寿命と最も関係している項目の1つです。データでは外に出ない猫の寿命が15.74歳に対して、外に出る猫は12.33歳と3年以上の差があります(日本ペットフード協会2012年)。
家の外には他の猫や犬、車、猫エイズウィルス、猫白血病ウィルス、ノミなど危険がいっぱいです。猫の性格にもよりますが、長生きを考えたら室内飼いを徹底する事が大切です。
食事には総合栄養食を
いつもあげているフードのラベルをチェックしましょう。総合栄養食と記載されているでしょうか。総合栄養食とは猫に必要な栄養が全て含まれているキャットフードです。
総合栄養食と新鮮な水だけで猫の健康を維持できるよう調節されています。反対に、一般食と書いてあるものは私たちでいう「おかず」みたいなものです。一般食だけたべていると栄養が偏ってしまいます。
キャットフードの中には原材料にこだわった、人間の食品基準をクリアしたものしか使っていないフードもあります。それを「ヒューマングレード」といいます。ヒューマングレードは一般的フードより高価です。
人間でも食の安全を脅かすような話がたびたび報道されています。ヒューマングレードのキャットフードは愛猫により安全な食事を与えたいと願う飼い主さんのためのフードです。しかし、ヒューマングレードでなければ長生きできない、病気になってしまうというわけではありません。
猫の栄養で問題になるのは食べ過ぎによる肥満です。室内飼いの猫は40%が肥満または肥満予備軍といわれています。肥満は糖尿病等の病気になりやすいことがわかっており、正常体型を維持する事は猫を長生きさせることに繋がります。
水をしっかりととってもらう
猫の最も多い病気は慢性腎臓病です。慢性腎臓病が猫に多い理由として、猫の水分摂取量の少なさがあげられます。また膀胱炎や尿路結石も水分をしっかりとることで予防できます。
新鮮な水を数カ所、猫が立ち寄りやすい場所に設置しましょう。食事皿の隣に水を設置することが多いですが、実はこれ、あまり猫としては嬉しくありません。もちろん並べて置いても良いですが、他の場所にも水飲み場を設置してあげましょう。
蛇口から流れ出る動く水しか飲まない猫もいます。そういった場合は飲み水を自動循環させる猫用の給水機がありますので試してみましょう。また、ドライフード(水分5~10%)よりもウェットフード(水分70~80%)の方が含水率が遥かに高いので、いつもの食事をウェットフードに変える事で水分摂取量を多めに維持することもできます。
水の種類ですが、硬度が高いミネラルウォーターは猫にとって良くありません。ミネラルが多すぎると腎臓に負担がかかったり結石ができやすくなるためです。
ワクチン接種は大切
ワクチン接種によって、感染症、ノミ、ダニ、フィラリアなどの病気を予防することができます。ノミで命を落とすことなんてないと思われがちですが、ノミの大量寄生により重度の貧血になり亡くなる猫もいます。また最近では猫でもフィラリア予防の重要性が明らかになってきました。防げる病気はしっかり予防してあげましょう。
定期的な健康診断
猫が病気になると、発見が遅れがちです。もともと猫は病気を隠す生き物なので、病態が進行して初めて症状が現れます。病気の早期発見のため定期的に健康診断をうけましょう。
猫は人間の4倍のスピードで年をとるといわれていますので、シニア猫の場合は1年に2回の健康診断をおすすめします。
また、病院で行う検査だけでなく、日頃から猫に触れて異常がないかチェックしておく事も大切です。特に乳腺腫瘍はしこりのサイズが重要な予後因子であるため、乳腺のしこりに気づいた時は早めに動物病院で相談して下さい。他にも尿量が増えたり急に体重が減るなどは病気のサインであることが多いです。
猫にとって「豊かな家」を作る
猫の習性に沿って過ごしやすい環境を「豊かな家」と呼びます。5個のポイントがあるので簡単に解説していきます。
上下運動ができるようにする
猫は高いところが好きです。ジャングルに住むネコ科動物は木に登り待ち伏せして狩りをしますし、木の上の方が安全なので落ち着くようです。高いところにもリラックスできるスペースを作ってあげましょう。一番簡単な方法はキャットタワーを設置することです。また垂直方向の動きは運動不足の解消にもなります。猫の驚異的なジャンプ力を支える筋肉も、使わなければ退化してしまいます。そして筋肉量が減ると基礎代謝が下がりいっそう太りやすくなります。
隠れ家を作る
家に知らない人がきたり、掃除機を使っているときなど、嫌な事があった時に隠れるスペースを作ってあげましょう。このスペースは出来るだけ静かで、人通りが少なく、完全に猫の体が隠れるように布などで覆われていると良いです。
探索できる場所を作る
猫の狩猟本能は何歳になっても無くなる事はありません。たとえ猫じゃらしで遊ばなくなっても、猫はいつまでもハンターなのです。
探索できる場所とはトンネルであったり、段ボールのようなものでも良いです。時々そういった場所にフードを隠しておくと猫の狩猟本能をくすぐりストレス解消になるでしょう。他にもドライフードを仕込んで転がすと少しずつ中身がでるおもちゃを使ったり、遊ぶときに、最後にフードが手に入るように工夫するといつもより満足感を得ることがでいます。
外の空気を吸わせる
上記の室内飼いのすすめと矛盾しているようですが、飼い主が見ている範囲で、脱走しないようかなり細心の注意を払いながら、外に出すということです。猫に外の空気を吸わせることは精神的に良い刺激になります。
もちろん、頑丈で猫が逃げない囲いがあることが条件です。あまり庭にスペースを割けない日本の都心部では現実的に難しいかもしれません。他にも猫用ハーネスをつけて散歩することで外の空気を吸わせても良いです。
外に出るときは予防接種を万全にし、絶対に逃げないように気を配って下さい。全く外に出た事が無い猫は大きな音が鳴ると驚いて、興奮する可能性があるので避けた方が良いでしょう。
清潔なトイレ
キレイ好きな猫は、トイレが汚いと大きなストレスをうけます。静かな人通りの少ない場所に設置して、常に綺麗にしてあげましょう。
また猫はトイレに対して強いこだわりを持っています。トイレのサイズは猫の全長の1.5倍、数は猫の数プラス1個が望ましいとされています。砂にもこだわりがある猫もいます。また、自然に尿だけが下に落ちるシステムトイレは非常に便利ですが、小さい砂粒を好む猫もいるので注意が必要です。猫が好む砂を選んであげましょう。
猫について知る
最後は猫のパーソナリティを理解することです。人間にとって嬉しい事でも猫はいやだったりします。ベタベタされたり、じっと見つめられたり、大きな声で呼ばれたり、お風呂に沢山いれられたり、猫はあまりそういうのが好きじゃないことが多いです。
猫によっても性格がバラバラなので一概にはいえませんが、基本的な猫の性質を知ることでより良い猫にとっての「豊かな家」を作ることができると思います。冒頭のクリームパフの飼い主ベリーさんもかなりの猫マニアとして有名だそうです。ここでは書ききれませんが、猫が食べてはいけないもの、猫に多い病気などを知っておくことも猫の長生きに繋がるといえるでしょう。
著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。