あの『あまちゃん』後、脚本家・宮藤官九郎(クドカン)が初めて連ドラを手がける『ごめんね青春!』(TBS系 毎週日曜21:00~)。さまざまなメディアで注目を集め、「初回試写会の応募数がTBSドラマ史上最高」だったことからも、視聴者の期待がうかがえる。
これまで学園ドラマを一切書かなかったクドカンだけに、いったいどんな作品になるのか。12日の初回放送から、その魅力と、通常の学園ドラマとの違いを考えていく。
大人の願望で描かれた学園ドラマ
クドカン自ら「『いじめ、学級崩壊、妊娠を一切やらない』のを自分の枷(かせ)にしました」と話していた通り、初回は深刻な事件が起こらず、ひたすら明るい学園生活を描こうとしていた。つまり、『金八先生』以降、学園ドラマの必須アイテムだった学校問題を全て排除しているのだ。
そのコンセプトを聞いたとき、「ああ、これは30代以上の視聴者が喜びそうなドラマだな」という印象を受けた。この年代は幼いころから学園ドラマを見て育った上に、現在は世知辛い世の中を生きる社会人。「日曜の夜に深刻なものなんて見たくない」「楽しかった時代を振り返りたい」というニーズを持っている。
特にクドカンと同じ40代は、陣内孝則の『愛しあってるかい!』、浅野ゆう子の『学校へ行こう!』など、"底抜けに明るくちょっとエッチな学園ドラマ"を見ていただけに、『ごめんね青春!』はバシッとハマるのではないか。決して『GTO』『35歳の高校生』『太陽と海の教室』らのハードな描写はないので、安心して見られるだろう。
さらに、錦戸亮演じる教師・平助の高校時代をカットバックさせて、昔の「あるある」や「初々しい恋」が楽しめるのも大きい。一貫しているのは、「今も昔も高校生は変わらないはず……そうあってほしい!」という大人の目線、というより願望で描かれていた。
キャラ、小ネタ、名言もしっかり
もちろん、クドカン最大の特徴である、各キャラの濃さと小ネタも健在。
極端な男嫌いのヒロイン・蜂矢りさ(満島ひかり)、表裏がありすぎる女生徒のあまり(森川葵)と愛(川栄李奈)、下ネタ全開エロ坊主の父・平太(風間杜夫)、元グラドルの義姉・エレナ(中村静香)、袈裟姿の教頭(『半沢直樹』机バンバンの緋田康人)など、平助以外の大人には普通の人がいない。それでいて、田舎の人が持つ素朴さも感じさせるのだから、やはりキャラ造形は巧みだ。
小ネタは、オープニングで錦戸亮に一人語りさせたり、ナレーションが観音菩薩(亡き母親役の森下愛子)だったり、テキトー校長(生瀬勝久)のお経が「ムニャムニャ」だったり、『ガールズバー』という名のスナックがあったり、男が男に両手で"壁ドン"したり、「『クローズ』路線封印してろくでなしブルース』でいくから」のセリフもあった。しかし、全体の数としては『あまちゃん』ほどではなく、あくまで"青春と愛情"という甘酸っぱい世界観が守られている。
また、女性の「今は誰とも付き合えない」という言葉のホンネは、「彼氏はいないけどお前とは付き合いたくない」という恋愛名言も飛び出すなど、初回の脚本は見事なまでにバランスが取れていた。
"合ブン"に向けてドタバタ劇が続く
とかくクドカンばかりがクローズアップされるが、むしろシンプルで抑えの効いた演出が光っていた。高校生たちの自然な表情も、田舎町の穏やかな風景も、映像は総じて美しく、出会いのドキドキや失恋の悲しさもしっかり。ハイテンポな展開とカットバックをフォローするナレーション&テロップの量も適切だった。
同ドラマ最大の魅力は、「大事件が起きない」「大げさな目標もヒーローもいない」こと。今後は「すったもんだのドタバタ劇を見せながら、合同文化祭(合コンならぬ合ブン)の成功に向けて進んでいく」というだけの物語だろう。
そこには、ほどよい期待感と切なさ、勇気と恥、幸福と後悔があるだけ。このような「奇をてらわずに漫然と1クール描き切る」スタイルは、80年代に多かったものだ。テーマ性やインパクトの強さを要求される昨今は、「ただ笑って見ているだけで、後には何も残らない」ドラマはまずお目にかかれなくなった。その意味で希少かつ貴重な作品と言える。
最後に。至るところで流れていたギターの音色は、ザ・クロマニヨンズの"マーシー"こと真島昌利。初めてドラマ音楽を手がけているのだが、こんなところでも「やっぱり40代のオッサンが一番楽しいドラマなんだな」と思ってしまった。まあ、子どもと一緒に見たら、いろいろな意味で「ありえね~」と言われそうだが。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。