10月13日から月9ドラマ『信長協奏曲』(フジテレビ系)がスタートする。同作は「月9初の時代劇」であり、ドラマ・アニメ・映画の3メディアを絡めた大型プロジェクト。さらに、「織田信長は現代からタイムスリップした高校生だった」という斬新な設定と、小栗旬、山田孝之、向井理、柳楽優弥ら若手主演俳優を集めたキャストで注目を集めている。
『信長協奏曲』の放送が発表されたときから、各媒体で「ラブストーリーの月9がかつてないチャレンジ」と書かれているが、ドラマ評論家である私の印象は真逆。実際のところ月9は、これまで27年もの間、意欲的な挑戦を繰り返してきたのだ。『信長協奏曲』スタート直前の今だからこそ、その歴史を紐解いてみたい。
80年代は業界モノとトレンディ
フジテレビの夜9時にドラマ枠が設定されたのは1962年だが、いわゆる"月9"として認識されているのは、萩本欽一の『欽ドン』シリーズが終わった1987年4月から。
岸本加世子主演『アナウンサーぷっつん物語』を皮切りに、田原俊彦主演『ラジオびんびん物語』、とんねるず主演『ギョーカイ君が行く!』、東山紀之主演『荒野のテレビマン』など、メディアの舞台裏を描く"業界ドラマ"を立て続けに放送した。この経験がのちの"職業ドラマ"制作につながっていく。特徴的なのは、放送期間が現状の「1クール3カ月間」ではなく、2カ月間だったこと。これはむしろせっかちな現在の視聴者に向いているスタイルかもしれない。
ここで一定の評価を得つつも、さらなる高みを目指し翌1988年に挑んだのは、トレンディドラマ。陣内孝則主演『君の瞳をタイホする!』、三上博史主演『君が嘘をついた』、中山美穂主演『君の瞳に恋してる!』の"君3部作"は、そのシンボル的作品だった。脚本も演出もカッコよさと遊び心であふれ、「僕も、私も、あんな風になりたい」と夢を描かせる世界観の作り込みが光っていた。
「現在のドラマには夢がない」という声をよく聞くが、月9は今も連ドラ界の象徴として、その重責を担わされている。少なくとも30代以上の人々は、「あのころのようにワクワク、ドキドキさせて欲しい」という潜在願望を持っているのではないか。
栄光を捨て攻めまくった1992年
1990年代に入ると、恋愛ドラマの割合がグッと増える。浅野温子と三上博史がキスを連発した『世界で一番君が好き!』、安田成美と吉田栄作が社内恋愛する『キモチいい恋したい!』、中山美穂と柳葉敏郎がすれ違いまくる『すてきな片想い』がいずれもヒット。そして1991年には、鈴木保奈美&織田裕二の『東京ラブストーリー』、浅野温子&武田鉄矢の『101回目のプロポーズ』が社会現象になり、視聴率も30%台に突入した。
しかし驚くのは、その翌1992年にチャレンジしまくったこと。初のサスペンスであり、残虐シーンや三上博史の女装&1人3役が話題を呼んだ『あなただけ見えない』は衝撃的だった。さらに、今年流行った"ダブルヒロイン"の先駆けである『素顔のままで』、映画『ゴースト』をアレンジした『君のためにできること』、「ヒューヒューだよ」「カキーン」の斬新すぎるセリフがモノマネされた『二十歳の約束』と、前年の栄光を捨てて攻めまくったのだ。
その後、1993年の江口洋介主演『ひとつ屋根の下』は初のホームドラマ、1994年の西田ひかる主演『上を向いて歩こう!』は振り切ったドタバタコメディ、1995年の小泉今日子主演『まだ恋は始まらない』は江戸時代に心中した男女が生まれ変わる時空ラブコメ、1996年の和久井映見主演『ピュア』は知的障害者のヒロイン、1997年の反町隆史&竹野内豊主演『ビーチボーイズ』はイケメンと夏に特化、1998年の田村正和&松たか子主演『じんべえ』は血のつながらない親子の恋愛感情、1999年の竹野内豊&松嶋菜々子主演『氷の世界』はぶっ飛んだ結末のサスペンス&ミステリー、と攻め続ける姿勢を見せた。
この間、木村拓哉主演『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』などが爆発的な人気で注目を集めていたのだが、その陰で1年に1作はビッグチャレンジをしていたことになる。
職業ドラマからジャンルレス時代へ
2000年に入ると、一転して恋愛ドラマが復活。中山美穂&金城武主演『二千年の恋』は国家スパイとの恋、佐藤浩市&稲森いずみ主演『天気予報の恋人』はバツイチ同士の恋、松嶋菜々子&堤真一主演『やまとなでしこ』はお金をめぐる恋と、コンセプトを巧みに変えて描き分けた。
2001~2004年は再び路線が変わり、"職業ドラマ"が次々に誕生する。2001年の木村拓哉主演『HERO』は検事、滝沢秀明主演『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』はパティシエ、2002年の竹内結子主演『ランチの女王』は洋食屋コック、2003年の江口洋介主演『東京ラブ・シネマ』は映画配給会社の社長など、さまざまな仕事現場にクローズアップした。また、演技未経験のミムラをヒロインに抜てきした『ビギナー』、当時ブームの韓流を採り入れた『東京湾景~Destiny of Love~』も話題を呼んだ。
その後、月9はジャンルレスな時代に入っていく。2005年の竹内結子主演『不機嫌なジーン』は生物学者同士の恋、2006年の香取慎吾主演『西遊記』は原作を大胆にアレンジ、上野樹里主演『のだめカンタービレ』はクラシック音楽、2007年の福山雅治主演『ガリレオ』は物理学ミステリー、2008年の織田裕二主演『太陽と海の教室』は17年ぶりの学園ドラマ、2009年の中居正広主演『婚カツ!』は婚活など、テーマ選びに試行錯誤の跡が見られた。
視聴率低迷が叫ばれはじめたのもこの時期。最多主演9回を誇る"月9のエース"木村拓哉ですら、『CHANGE』『月の恋人~Moon Lovers~』の放送スタートを1カ月後倒しするなど、注目を集めるための対策が立てられたほどだった。
挑戦し続けることこそ月9の伝統
近年では2012年の松本潤主演『ラッキーセブン』はアクション探偵モノ、大野智主演『鍵のかかった部屋』は密室ミステリーという"事件+嵐"を連続放送。2013年の山下智久主演『SUMMER NUDE』は『ビーチボーイズ』への、松田翔太主演『海の上の診療所』は『Dr.コトー診療所』へのオマージュを感じる作品を連続放送するなど、1年ごとの傾向が見られた。
そして迎えた2014年。『失恋ショコラティエ』『極悪がんぼ』『HERO』の3作からはこれといった共通性はおろか、視聴者ターゲットすら分からない。今クールも『ドクターX』が高視聴率を記録するなど、固定ファンを抱え込むテレビ朝日の木曜9時枠とは正反対の路線だ。
いずれにしろ月9は、単にラブ、学園、ホーム、職業など、さまざまなジャンルのドラマを作ってきただけではない。「視聴者のニーズはどこなのか?」「流行をとらえよう」とここまで挑戦を続けてきた枠はなく、それが月9ならではの伝統として受け継がれているのだ。
陣内孝則がハジけまくった『愛しあってるかい!』、大学生ドラマの金字塔『あすなろ白書』、衝撃のラストが物議を醸した『この世の果て』など、心に残るタイトルを挙げればキリがない。『信長協奏曲』もその歴史を彩る名作となるか、期待して見守りたい。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。