10月2日、パナソニックから約745gのタッチ対応2in1 PC「Let'snote RZ4」が登場した。コンバーチブルPCで世界最軽量をうたう、10.1型のモバイルPCだ。

同社が「Let'snote」2014年秋冬モデルの中で最も力を入れた本機は、いったいどのような経緯で開発されたのか。そして、世界最軽量に込めた想いはなんなのか。同機を担当した、パナソニック AVCネットワークス社 テクノロジーセンター ハード設計第一チームの星野央行主任技師に話を聞いた。

パナソニック AVCネットワークス社 テクノロジーセンター ハード設計第一チームの星野央行主任技師。Let'snote RZ4の新色「ブルー&カッパー」のカラーリングに合わせたスーツ姿で登場

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――まず、コンバーチブルPCとして「世界最軽量」のPCを開発するに至った経緯を聞かせて下さい。

やはり「軽いものを持ちたい」というニーズを、いろいろなところからずっと聞いていました。従来から「Let'snote」は、軽くて、駆動時間が長くて、頑丈、というコンセプトで作り続けてきました。今は他社からも多くの軽量PCが出ていますが、他社に負けるわけにはいかない、これが技術者としての1番の想いでした。

もともと、軽量に関してはずっと追い続けていたのですが、ここにきて「世界最軽量ができるんじゃないか」というめどがたったんです。そこから、開発をスタートしました。

――開発のめどが立ったのは、いつぐらいでしょうか。

2013年の年末くらいですね。その頃から10.1型というサイズを決めていました。やはりタブレットで使うには、あまり大きいと逆に使いにくい部分があります。11.6型の「Let'snote AX」、12.5型の「Let'snote MX」など、12インチクラスも出してきましたが、気軽にタブレットとして使えるのかという疑問を、われわれ技術者としても持っていました。自分で使ってみても、片手で使うには大きいサイズです。重さではなく、大きさの観点で。

いくら大きくて軽いものを作っても、タブレットとして「気軽に使う」には大きすぎるかな、という感覚があります。そこで、10インチというサイズにこだわりました。

――では、10.1型というサイズ感が起点だったのでしょうか。

いえ、起点は「最軽量」というところからです。

軽さは750g以下を目指す、というターゲットが設定され、であれば片手で持てるよね、となって、片手で持てるのであれば、適切なサイズが世の中にはあるだろうという流れです。10インチクラスのタブレットは多く出ているので、そこに合わせるべきだろう、と。

――750g以下という数字を目標としたのには、理由があるのでしょうか。

正直に言って、これは他社との関係です(笑)。750g以下までいけば「世界最軽量」と言えると。他社さんで11.6型で770g、という製品が既にあるので。

――VAIOの「VAIO Pro 11」ですね。

そうですね(笑)。タッチパネルなしで約770g。それよりは絶対に下回らないといけない。タッチパネル搭載のコンバーチブル型、としたの理由の1つはここにあって、タッチパネルを付けて、770gより下回りたかったんです。もしタッチ機構を省いたら、あと、約100g弱ほど軽くなるでしょうね。

もちろん、タッチパネルをはずす、(コンバーチブルでなく)クラムシェル型の通常のPCにする、という議論も、社内ではありました。ただ、それで世界最軽量と言っても、ほかのメーカーに追いつかれてしまう。どこのメーカーからも、きちんと引き離せるほどの軽さを目指すといった場合に、やはりタッチパネルを付けて最軽量とするべきだろうという結論になりました。

――1,920×1,200ドット解像度で10.1型という大きさは、小さいようにも思えます。社内で検討はありましたか。

「表示が細かすぎるのでは」という議論は、今回に限らず常に社内であります。ただ、Windows 7以降、フォントの表示サイズをユーザー側で設定できるようになっているので、「あまり表示サイズにこだわっても仕方がない」と社内で説得しています(笑)。

実際「Let'snote RZ4」では表示設定を150%に拡大して出荷しています。適切だろう、という状態で出荷していますが、ユーザー側でも変更できますから。

――最軽量の実現にあたって、技術的なポイントを教えて下さい。

まずは、トップキャビネット部で、強度が必要な部分だけ厚みをもたせて、それ以外の部分は極限まで薄くする「VHフレームストラクチャー」ですね。局所的に厚みのある箇所を作り、その部分をビス止めすることで強度を確保しています。 そのほかでは、タッチパネルの素材の選択が大きかったですね。樹脂やガラスなど、いろいろ検討して、最軽量のPCを作るためにバランスも考慮した結果、採用したのは強化ガラスでした。それを、とことんまで薄くしました。

液晶は、「Let'snote SX」シリーズなど、他のLet'snoteでも0.2mm厚で製品化してきています。この部分では特別軽量化が進んだ、というわけではないですが、タッチパネルの部分では、今回大きく軽量化が進んだところはありますね。

あとは、もうあれもこれも、いろいろな部分が軽量化に貢献していますね。多すぎて困るくらい(笑)。特に付け加えるならば、ファンの搭載が挙げられます。「Let'snote RZ4」で採用しているインテルのCore Mプロセッサは「ファンレス」というアピールもしていますが、本機には、あえてファンを載せています。

フルのパフォーマンスを出そうと思ったら、ヒートパイプを多く載せなければいけない。そうすると、その分重くなってしまいます。「最軽量」を意識して、かつフルパワーで動かそうと思ったら、ファンを付けた方がトータルでは軽くなる、という計算でした。

Let'snote RZ4のトップキャビネットには「VHフレームストラクチャー」技術が採用されている。厚い部分と薄い部分は見た目や触った感覚でわかる

――今回、バッテリも高容量のものを新開発していますね。

「Let'snote AX」や「Let'snote MX」は6セル搭載ですが、「Let'snote RZ4」では4セル搭載です。これだけでも、重量としてはその2機種と比べて3分の2の軽さですよね。ただしそれだけでは、駆動時間が短くなる。そこで1セルの容量の下げ幅を減らすため、1セル9,234mWhのバッテリを新開発しました。「Let'snote AX」や「Let'snote MX」と遜色ない、とまではいかないですが、それでも約10時間とかなりの長時間駆動を確保できました。

「Let'snote RZ4」にCore M(Core M-5Y10)を採用した決め手もそこです。バッテリ駆動時間なんです。

――Core M搭載PCの発表は国内初ですね。インテルと技術的な協力が多くあったと聞いていますが、どういった部分で協力したのか聞かせて下さい。

実はその部分は、ちょっとお話できないんです(笑)。バッテリ駆動時間だけでなく、本当に多くの部分で、ということでご容赦下さい。

そうですね、新しいキャビネットに、新しいCPUを載せるということは、両方の開発が一緒に進むということで、すごく難しいんです。ここがチャレンジした部分と言っていいでしょう。これをクリアしたので「Let'snote RZ4」が登場したと。

Core iを使っていたら、駆動時間はもっと短く、放熱的な観点からももっと重くせざるをえなかったでしょうね。開発は大変でしたが、Core Mの搭載をトライして良かった、と思っています。

ちなみに、Let'snoteでは、新世代のプラットフォームを採用した場合、製品名にナンバリングが入ります。Ivy Bridgeを載せた「AX2」やHaswellを載せた「SX3」といったように。今回はCore Mの採用で「4」という数字をPCの名称に入れていますが、「RZ」という製品名自体には、特に意味を持たせていません。

――今回ラインナップされた新色の「ブルー&カッパ―」は、Let'snoteでは斬新なカラーリングですね。採用した経緯を教えて下さい。

ブルー&カッパ―ですね。これに関しては、社内に色の担当チームがあって、今回はそこに全て任せました。「どんなもんが出てくるかな」とこっちは待っていただけですね。ものづくりとして成立しないカラーリングは却下しましたが、これについては成立しそうだと考えたので、頑張りました。

塗装部分はかなり苦労しましたね。塗料メーカーさんや、実際に色を塗る塗装メーカーさんと打ち合わせして進めていきました。そういったメーカーさんは海外にも拠点を持っているのですが、そこへデザインのメンバーを連れて行って。喧々諤々しながら、なんとか成立した、という感じですね。

社内では、年齢が若い層ほど受け入れられてます。市場にも「Let'snote=シルバー」というのと同じくらい、定番色として受け入れられていけば、と思います。

ちなみに、他の「Let'snote」でも採用している、耐指紋塗装技術を、この「Let'snote RZ4」でも採用しました。シルバーモデルでは、既に技術が確立されているのですが、今回のブルー&カッパ―のカラーで、うまく実装できるかは正直なところ未知数でした。ここも難しいところでしたね。

Let'snote RZ4のブルー&カッパー。天板はハーモニックブルー、本体にブラウン調のカッパー(銅)色を採用する

――「Let'snote RZ4」はどのような人に使って欲しいですか。また、「最軽量」に込めた想いがあれば教えて下さい。

今回の「Let'snote RZ4」は、今までのLet'snoteよりは若い世代に使って欲しいと考えています。具体的にどの世代、と限定せず、単純に「若い世代」と。新しい世代を取り込みたい、ということですね。

私は、2002年に発売した10.4型XGA液晶の「Let'snote R1」を担当していました。当時はいち技術者として、基板を開発していました。その頃から、周囲で「800gを切ったら、やっぱり軽いよね」という話がありました。

実は、「Let'snote R1」のバッテリを抜くと、ちょうど800gを切るくらいの重さなんです。それが本当に軽く感じられた。やっぱり、そこを目指したいという思いがずっとありました。そして「R」シリーズや10.1型の「J」シリーズ、「AX」の担当を経て、「RZ4」を手掛ける機会がやってきました。そういった意味で、今回、やっとできた商品です。自分で点数は付けられませんが、自信を持った商品ですね。

――有難うございました。