トルコ経済といえば、第一に、若い人口の比率が高く、つまり経済成長のポテンシャルが高い新興国経済であること、そして、欧州、アジア、中東をつなぐ要衝としての地理的優位性を有していることなどの「強み」が思い浮かぶ。

一方で、「弱み」は、経常収支が慢性的な赤字であり、つまりは外国の資金に依存した経済だということだろう。昨年5月にバーナンキ米FRB議長(当時)が金融緩和縮小の可能性を示唆した際、資金流出懸念から株式や通貨が売られた「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5か国)」の一員であったことは記憶に新しい。インフレ率は2ケタに近く、中央銀行が設定している5%のインフレ目標を大きく上回っている。

さて、以下では、案外知られていないトルコ経済の意外な強みについて触れておきたい。 第一に、財政の規律が保たれていることだ。IMF(国際通貨基金)によれば、トルコの2013年の財政赤字は名目GDP比1.5%にとどまった。2000-2001年に経験した経済・金融危機の前後では、財政赤字は同10%を上回っていたが、IMF支援のもとで財政・金融改革を進めたことが財政健全化の礎になったのだろう。

また、政府債務残高は名目GDP比で趨勢的に低下しており、2013年末で36%に過ぎない。これに対して、ユーロ圏全体では90%近く、言うまでもなく日本は200%を超えている。

財政規律が保たれるなかで、経常収支が赤字だということは、国内の投資が国内資金で賄われていないということだ。だからこそ外国資金の呼び込みに力を入れる結果となる。ただ、TCMB(トルコ中央銀行)によると、昨年5月までの1年間にトルコに流入した外国資金の約3分の2が証券投資などの短期資金だった。つまりは「逃げ足」の速い資金だ。これに対して、直近1年間ではほとんどが直接投資などの長期資金だという。資金流入の安定度は増しているようだ。

第二に、金融システムが比較的安定していることだ。これもIMF支援のもとで改革を進めた結果だろう。世界銀行によると、トルコの銀行全体の自己資本比率(自己資本/総資産)は11.2%。リーマン・ショックを契機に資本増強を進めた米国の11.8%には及ばないが、日本やドイツの5.5%を大きく上回っている。リーマン・ショックを含む2007年から現在までの期間に、銀行の破たん・救済がなかった国はOECD34か国の中で唯一トルコだけだとの話も聞く。

財政が健全であり、金融システムが安定しているのであれば、トルコがユーロ圏のような債務危機や、リーマン・ショックのような金融危機の震源地にはなりにくいということだ。もちろん、新興国である以上、先進国以上に外的ショックには敏感だろう。FRBのQE(資産購入)が終了して、利上げ開始が現実味を帯びた時に、トルコが「フラジャイル(脆弱)」でなくなったかどうかが試されるのかもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。